人材のタイプの分類論は世の中にいくつもありふれています。それを活用してマネージメント方法や人材配置を検討している会社も多いと思います。
今回は、サイモン・シネック氏が、リーダーの思考性に対して定義したゴールデン・サークルの考え方をもとに、人材のタイプ分類とそのマネージメント方法について考えてみました。
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Golden Circleによる人材の分類
WHY型人材は、理念に燃える
WHY型の人材は、イノベーター気質です。どんな仕事をやるにしても、その根本にある「世界をどう変えていくのか」「世界にどういう価値を提供するのか」という理念に燃えます。そして、その理念を最短距離で実現することに闘志を燃やします。
今目の前にある業務やタスクは、あくまでその理念を実現するための手段のひとつという捉え方をするので、Pros/Consを考えた時にまったく別のやり方のほうが最短距離であるならば、今目の前にあるものは潔く捨て去ります。それがどんなに長い年月をかけたものであっても。どんなに他者に評価されている定石であっても。
WHY型人材にとって、すべてのタスクは、実現したい理念からブレークダウンされたものであるべきなのです。
HOW型人材は、オペレーション効率化に燃える
HOW型の人材は、とにかくオペレーションをいかに効率的に整えるのかに闘志を燃やします。業務の無駄を嫌い、コストの無駄を嫌い、人材の無駄をも嫌います。
ヒト・モノ・カネは、オペレーションを効率化するための駒にすぎません。いかにその駒を配置することで、効率化できるかを常に考え続けます。何かを成し遂げたいわけではないのです。「オペレーションを効率化する」という手段が目的なのです。
そのため、ときに人の心を理解できない、という評価をされることがあります。当たり前です。「効率」という価値基準からすれば、人の心など無駄の境地。そんなものに判断は左右されません。
WHAT型人材は、プロダクトアウトやオペレーションに燃える
WHAT型の人材は、とにかくいま目の前にある仕事を完遂することに燃えます。プロダクトを作り出すこと。オペレーションをミスなくまわすこと。いま目の前にあるすべてに情熱を注ぐのです。
それが何か大きなことを成し遂げるパーツであるかどうかなど考えません。自分が駒として扱われているかどうかもどうでもいいのです。とにもかくにも、目の前の仕事が完遂されたときに喜びを感じます。
ともすれば、喜びすらいらないのです。日々の仕事をこなし、給料をもらう。それだけでいいのです。
それぞれの人材の関係性
WHY型リーダーとHOW型メンバー
WHY型のリーダーには、HOW型のNo.2が欠かせません。WHY型は、理念をとにかく考え続けることは得意ですが、それを具体的に実現する方法を考えるのは苦手です。極論を言えば、頭のなかで思い描いた世界が実現すれば、手段は問わないのです。
ましてや、最適で効率的な手段を整えることなど、めんどうでしょうがないのです。とにかく、理念を実現したい。だからこそ、きちんとそれを実現するためにオペレーションを整える、HOW型のNo.2が必要なのです。
HOW型リーダーとWHY型メンバー
HOW型のリーダーとWHY型のメンバーは、水と油です。絶対に合いません。HOW型にとって理念など不要です。とにかくオペレーションを効率化したいのです。しかしながら、WHY型のメンバーはそれを何故やるのか、そもそも効率化しようとしているオペレーションは「何故やるのか」という理由にとって最適なのかを考えたいのです。オペレーションの効率化は二の次です。
だから、会話が噛み合いません。HOW型のリーダーには、WHY型が知りたい「何故」はありません。効率化が「何故」だからです。この「何故」のズレのせいで、HOW型リーダーからするとWHY型のメンバーは、ぐだぐだと言ってるだけで何も行動しない使えない人材、と見えていることでしょう。WHY型の人材はなかなか評価されません。
WHY型リーダーとWHAT型メンバー
WHY型のリーダーには、WHAT型のメンバーが欠かせません。WHY型はとことんものづくりに集中することができないからです。ともすれば、モノ自体を作る能力はありません。
また、WHAT型のメンバーは、WHY型のリーダーを求めています。とにかく目の前の仕事をこなすWHAT型ですが、しかしながら「世界をどう変えたいか」という情熱がないわけではないのです。自分で思い描けないだけなのです。WHAT型のメンバーがWHY型のリーダーに出会えた時、それこそ水を得た魚のように、理念を実現するためのプロダクトづくりやオペレーションに、熱い熱い情熱を燃やすことでしょう。
WHAT型リーダーとWHY型メンバー
WHAT型のリーダーとWHY型メンバーは、これまた水と油です。絶対に合いません。WHAT型にとってもまた、WHY型のメンバーは、ぐだぐだと言ってるだけで何も行動しない使えない人材、と見えています。とにかくいいから仕事をしろ、と思っていることでしょう。
WHY型にとっては、WHAT型リーダーが「いいからやれ」といっている仕事が、理念の実現にとって本当に最適なタスクなのかに疑問を持ったとき、モチベーションはあがりません。他にやるべきことがあるのではないかという疑念を持ち続けてしまいます。
HOW型リーダーとWHAT型メンバー
HOW型リーダーにとって、WHAT型メンバーは使い勝手のいい駒です。とにかく、こうしたいと思い描いているオペレーションに対して、ただひたすらにいわれたとおりに動いてくれるWHAT型と働くことは心地よいでしょう。
また、WHAT型メンバーもHOW型リーダーと働くのは心地よく感じます。HOW型リーダーは、仕事を明確に定義してくれるので、目の前のことに情熱を燃やしたいWHAT型にとっては余計なことや苦手なことに頭を使う必要がありません。とにかく言われたことをただひたすらにこなしていれば評価してくれるのですから。
WHAT型リーダーとHOW型メンバー
WHAT型リーダーとHOW型メンバーは、水と油までいかなくとも、やはりやりにくさは互いに感じるでしょう。しかしながら、互いのことを尊重しあえれば、よい関係を築けます。
WHAT型リーダーはとにかく目の前の仕事をこなしたいのです。メンバーはこなしてくれればそれでいいとさえ思っています。しかしながら、オペレーションを整えなければならないことも同時に理解しています。しかしながら自分ではできないのです。
自分ではできないことを明確に認めることができたとき、HOW型メンバーは非常に有益に感じます。自分がやりたいことを伝えれば、それに最適なオペレーションを考えてくれるのですから。
HOW型メンバーにとって、そこに気づかず、もしくは気づいていたとしても認めていないWHAT型リーダーはやっかいでしかありません。明らかに非効率な仕事の進め方が気持ち悪くてしょうがないからです。もっと効率的なやり方があるのに…と鬱憤を貯めるでしょう。
組織のあるべき姿は、WHY型→HOW型→WHAT型のピラミッドだ
それぞれの関係性を考えた時に、もっともあるべき姿なのはWHY型→HOW型→WHAT型のピラミッドなのです。WHY型が理念を考え、HOW型がその最適なオペレーションを追求し、WHAT型がプロダクトを作り、オペレーションをまわす。理念を実現するために最短距離を進めるチームになるでしょう。
起業家に代表されるイノベーターは、最初はWHY型ではなく、HOW型やWHAT型のケースもあります。しかし、事業の成長にともない必ずWHY型へと変化を遂げます。逆説的に言えば、WHY型に変化しないリーダーが率いるスタートアップは成長し得ないのです。なぜならば、ユーザはWHYに共感してプロダクトを買うからです。ユーザにとっては、それが効率的に作られているかどうかに興味はないし、求めるレベルを大幅に上回っているようなプロダクトも必要ないのです。
しかしながら、起業の成長に伴って、マネージメントレイヤーはHOW型ばかりになっています。WHY型のリーダーにとって、HOW型こそが自分の思い描いた理念を実現してくれる最適な人材であって、評価される人材だからです。オペレーションの効率化で成果を出した人材が出世していくからです。創業者が退き、後任に席を譲った時、HOW型リーダーが誕生します。
HOW型リーダーは、WHAT型を駒としてみているため、同じようにHOW型の人材を評価します。また、WHY型は「クチだけで実行しない無能な存在」のため、WHAT型以上に評価が低くなります。そして、HOW型リーダーの元での組織は、HOW型→HOW型→WHAT型のピラミッドへとなっていきます。
これが、老舗企業であればあるほど、イノベーターが存在しない理由になっているのです。正しく言えば、イノベーターは存在していても、社内で頭角を現すことはありません。HOW型からみたら、WHY型は「クチだけで実行しない無能な存在」だからです。そして、評価されずに、腐っていくか、辞めていってしまうのです。
イノベーションを起こす組織でありたいのならば、WHY型を引き上げることを明示的に実行しなければなりません。あわよくば、次世代のリーダーは、階層の2つ、3つ下からWHY型人材を引き上げる必要があるのです。