多額の資金調達は、スタートアップを殺す

スタートアップは、早い段階で多額の資金を調達すると、それが事業拡大の起爆剤とはならないケースがあります。

逆にそれが足かせとなってしまう。もし、そのケースに陥ってしまった場合、会社をじわじわと絞め殺すガンになるので注意が必要です。

ざっくりまとめると…

  • 株主とユーザへの提供価値がハレーションになる
  • 金銭感覚が狂う
  • お金がないと工夫をしなくなる

Contents

資金調達とは、規模拡大である

本来、資金調達をするということは、その額が大きければ大きいほど、ビジネスモデルが固まったということとニアリーイコールです。

当然そこで資金提供するVCは規模拡大を期待します。

しかし、ビジネスモデルが出来上がってもいないのに、規模拡大のための施策を打つとそこに齟齬が発生します。シンプルにいうと想定どおりのCPAで獲得できないという状況です。

すると獲得すればするほど累積赤字が蓄積し、回収までに数年かかる、なんてこともザラです。トップラインの伸び以上に、赤字が膨らんでいきます。

株主への提供価値とユーザへの提供価値に齟齬が起きる

ユーザにとって、規模拡大が必ずしも価値に直結しません

特に初期フェーズでは、イノベーターとして多少の不満があったとしても応援する気持ちをこめて利用してくれているユーザもいます。

そのユーザにとっては、将来的にその不満が解消されることを前提として、まず使ってくれている。その解消すら行わずに規模拡大することは、そのユーザが望んでいるわけではありません。

当然、会社のフェーズが変わっていくと、古参ユーザーを切り捨てざるを得ないタイミングというのはあります。断腸の思いでその決断をしなければならない。

しかし、しなくてもいい切り捨てもあるはずです。初期から利用してくれるユーザは、ある意味「同質化」がしやすいユーザです。しっかり囲い込めば、そのユーザはエヴァジェリスト足り得る存在です。

けれども、大型資金調達をした場合の株主はユーザにとっての価値よりも、規模拡大を望みます。とにもかくにも規模拡大。

株主とユーザにとっての提供価値は、ハレーションを起こす原因になります。大規模資金調達をするとそのハレーションが不必要なタイミングで、不必要に大きくなってしまうのです。

金銭感覚が狂い、享楽的な投資をしてしまう

資金調達で得た金はある種のあぶく銭です。自ら稼いだお金ではありません。

であるならば、堅実に、それに見合った使い方をしなければなりません。

例えば、短期的な利益を追求するのではなく、長期的に良いフィードバックがあるようなものへの投資などです。

しかし、そう自らを律せられる経営者はさほど多くはありません。

小さいことから金銭感覚はおかしくなり、気づいたときには後戻りできない最悪な事態に陥っていることもあります。

お金がないと工夫をしなくなり、金で解決してしまう

よく「制約がクリエイティビティをうむ」といいます。

おカネもリソースもないからこそ、野心的な起業家ならとくに過激なアイデアを思いつくことがあります。

すばしく動き、他の人が見落としたことや、無理だと思ったことに挑戦します。

お金がないからこそ、常識外のことを考えるわけです。

しかし、お金が潤沢にあると考えることを早々にやめ、お金で解決することに走ります。手っ取り早く広告宣伝費に多額の予算を突っ込んだり、給与が高いハイスペックの人材を採用したり、コンサルに外注したり…。

そして工夫がなくなり、工夫をするスタートアップにディスラプトされてしまうわけです。

まとめ

資金調達のニュースを頻繁に目にし、また大型資金調達した起業家をまるでスターのように扱うメディアもいます。

しかしよく考えてください。資金調達はゴールではありません。あくまでゴールに達成するための手段なわけです。

であるからこそ、手段としての資金調達に振り回されることなく、堅実に事業を営みながら、必要に応じて必要な額を資金調達するということを意識すべきです。

当然、本稿は大型調達自体を否定するものではありません。それによって一気に拡大することができ、またその準備が整っているのであれば、企業成長にとって有効な手段となるはずです。

ビジネスクリエイター、インキュベーター、アクセラレーター、コンサルタント。エンジニアとして、PHP/HTML/CSSのマークアップ言語によるWebサイトの制作、SEOエンジニアリング、アクセス解析アナリストを経験した後、IT領域の技術/潮流をベースとしたエスタブリッシュ企業向けのコンサルタントを経て、複数のIT企業にて、Web/アプリ系、O2O系、IPライツ系の新規事業立ち上げに注力。事業開発から経営企画業務まで、事業および会社立ち上げに関する業務を幅広く経験。また、シードフェーズのベンチャー複数社の立ち上げへの参画や経営戦略・組織戦略・PR戦略へのアドバイザリー、メンター、複数のアクセラレーションプログラムのメンターも手がける。