複数の企業において新規事業立ち上げを行なってきたシリアルイントラプレナーが、そこで繰り返してきた失敗を主観的に、客観的に記す「イントラプレナー(社内起業、新規事業)の失敗学」。
今回は、新規事業に取り組む際の事業ドメインの選定方法について。
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アンゾフの成長マトリクス
「アンゾフの成長マトリクス」をご存知だろうか。経営学者のH.I.アンゾフが提唱した企業の成長戦略オプションを抽出するための考え方のフレームワークだ。
縦軸を「市場」、横軸を「製品」とし、それぞれ「既存」「新規」の2区分にわけ、4象限のマトリクスとしている。
第1象限「市場浸透戦略」
既存市場、既存製品の第1象限「市場浸透戦略」では、その名の通り、既存の市場で既存の製品を使って成長することを目指す。
同一顧客の購入頻度を高めたり、より高価な商品を購入してもらったり(アップセル)、違うラインナップの製品を購入してもらったり(クロスセル)、販売ボリュームを増やしたり、などだ。
また、新しいタッチポイントの開発や、既存製品の違う用途を提案する、なども考えられる。
第2象限「新製品開発戦略」
既存市場、新規製品の第2象限「新製品開発戦略」では、新商品を既存市場に追加投入することで成長を目指す。
消費財、特に飲料メーカなどは、毎年新しい商品や季節商品を販売しているわけだが、それはここに位置する戦略だ。
新しい素材を使ったり、新しい製法・技術を使ったりして、新しい商品を開発する。
第3象限「市場開拓戦略」
新規市場、既存製品の第3象限「市場開拓戦略」では、既存の製品を新しい市場に広げることで成長を目指す。
1つは地理的に新規市場を広げるもので、グローバル展開はまさにここにあたる。
また、もう一つはターゲットを広げるもので、例えば、男性向けだったものを、女性向けに展開するなどだ。
第4象限「多角化戦略」
新規市場、新規製品の第4象限「多角化戦略」では、全く新しい事業を立ち上げることで成長を目指すもので、「狭義の多角化」とも言われる。
既存事業のコアアセットが全く使えず、非常にリスクが高い戦略ではある。
ベンチャー企業は経営そのものがここを選択しているといえる。
事業展開は、第1象限から徐々に広げていくべき
よく新規事業をやろうという話になると、第4象限を狙うこととイコールと捉えることが多い。
しかしながら、前述の通り、既存事業のコアアセットが全くない事業を取り組むということになるわけだから、そこで既に活躍している企業や、新興ベンチャー企業などと戦うことになる。リスクは高い。
そして、泥臭さやスピードの遅さ、管理ルールの足かせなど、会社組織の要因によって、失敗することも多い。
せっかく既存事業があるのだから、ステップとして既存事業を広げながら、第2象限、第3象限へと徐々に徐々に展開していくべきだ。
そうすることで、第1象限そのものが広がり、第2象限、第3象限も広がっていき、新領域への足掛けとなるコアアセットがたまり、それが強みになって、事業を拡大していくことができるからだ。
焦らず、じっくり攻めてみたほうが、不確実性が排除できる、ということだ。
既存事業とカニバる領域を攻めよ
既存事業の状況を鑑みたとき、それでも一足飛びに新しい領域を目指さなければ、という危機感があると思う。それでも焦るなかれ、第4象限を目指すには、やはりリスクが高すぎる。
とはいえ、第1象限から徐々に、というのは新規事業としてのスピードが遅すぎるし、それは既存事業の人間がしっかりと成長を目指して継続的に取り組んでいくべきものだ。
とすれば、既存事業とカニバる、第1象限と第2象限、第1象限と第3象限を攻めるのが良いだろう。
この領域であれば、既存事業のコアアセットはほぼほぼ活用できる。強みを活かすことができる。そして、リスクは最小限に、新領域にも攻めることができて、既存領域を拡張できる。
唯一、マネージメントレイヤーが引っかかるとすれば「カニバる」ことだろう。
大企業は、組織において既得権益化する。それがイノベーションを阻害する要因になることは往々にしてある。カニバる領域であればあるほど、それが如実に表れるだろう。
しかしながら、前述の通り、リスクが低く、確実性、成功確率が高い新規事業が成り立つのはこの領域だ。本来であれば、目先のネガティブな要素など考えずに、積極的に攻めていくべき領域はここなのだ。
当然、第4象限であれば、カニバらず、新規事業が立ち上げられる可能性は高い。しかしながら、成功確率も当然低くなる。
成功確率が低くカニバらない領域を攻めるのか、カニバるが成功確率が高い領域を攻めるのか。極端に言えば、ローリスクハイリターンを得るのか、ハイリスクハイリターンを得るのか。そこから得られる期待値はどちらが高いのか。
ビジネスはたった一度のチャンスを掴む話ではない。何度も何度もチャレンジして、失敗を繰り返しながら成功へと導くものだ。だとすれば、ローリスクハイリターンを繰り返す方が結果的に期待値は高くなる。
だからこそ、トップマネージメントが本気で取り組んでいることをみせ、攻め込んでいく必要があるのだ。
既存事業が危うい状況にあるのであればなおさら、この領域を攻めるほかない。