複数の企業において新規事業立ち上げを行なってきたシリアルイントラプレナーが、そこで繰り返してきた失敗を主観的に、客観的に記す「イントラプレナー(社内起業、新規事業)の失敗学」。
今回は、新規事業へのマネージメントレイヤーの関与でよくある落とし穴について。
「スタッフが熱い思いをもったアイデアにこそ投資しろ」とは、真逆に、マネージメントレイヤーからトップダウンで新規事業を作る、ということはよくある。
マネージメントレイヤーの方が、スタッフより、経験も豊富で、人脈もあり、社内外の情報が豊富だからこそ、これから来るであるマーケットに対して感度高く接することができ、様々な新規事業のアイデアが溢れ出ることだろう。
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トップダウンで新規事業を進めるときに、意識すべきこと
これだ!というアイデアを思いついたとき、ヒト・モノ・カネをある程度自由に動かせるマネージメントレイヤーは、どのように振る舞うべきだろうか。
このとき、以下の点に気をつけなければ、そのアイデアをもとにした新規事業は、うまくいくどころか、チームが空中分解し、社内に悪影響を及ぼすことになるだろう。
1. トップダウンだからこそ、スタッフはモチベーションを持たない
自ら考えたことではない、マネージメントレイヤーが考えたアイデアを形にする仕事に、「アサイン」されたスタッフは、自らの熱意はそこには持ち合わせていない。
だから、あくまで言われたことを形にすることを仕事として認識してしまう。
熱意がないため、マネージメントレイヤーが考えたものを超えるような「仕事」をスタッフはしない。一向に進まないプロジェクトにイライラするだけになるだろう。
2. スタッフが、マーケットやユーザを見ずに、マネージメントレイヤーの顔色を見てしまう
熱意なくタスクをこなす、ということは、イコールとして自分で考えない、ということになる。
そして、その結果、スタッフはマネージメントレイヤーの顔色を伺いだす。
仕事の結果として、世の中の課題を解決し、人々に価値を提供する、という事業の本質から外れ、そのプロジェクトオーナーであるマネージメントレイヤーが、Yesというか、Noというか、のみを気にするようになるのだ。
つまり、事業を創出するために仕事をするのではなく、マネージメントレイヤーに気に入られる案を作るためにタスクをこなすようになるのだ。
3. 仕事の結果に責任感を持たず、すべてマネージメントレイヤーの責任にする
そして、結果として、責任感を持たなくなる。
マネージメントレイヤーがいいと言ったものをやっただけであって、その失敗の責任は自分にない。すべての責任はマネージメントレイヤーにある、と思うようになる。
権力がある人間が言ったことは、正なものとして受け取らざるを得ないのだから、これはある意味仕方がない思考ともいれる。
そして、ますますマネージメントレイヤーの顔色を伺うようになり、ますます仕事をしなくなり、タスクとしてこなすようになる、という悪循環に入っていく。
フルコミットするか、ファシリテーターに徹するか。2択だ。
基本的にボクは、トップダウンでの新規事業には反対だ。
それを力強く推し進められるスタッフがいる組織は稀であって、結局のところ、押しつけられた側のスタッフは本記事のようになっていってしまう。
1つの解決策は、マネージメントレイヤーがそこにフルコミットして進め、そういったスタッフを駒として活用すればよい。そうすれば、マネージメントレイヤーが作りたいアイデアをしっかりと形にすることができるだろう。
しかし、「経営」という仕事があるなかで、フルコミットするのは難しい。
自分がフルコミットできないのであれば、あくまでファシリテーターに徹するべきだ。アイデアを出したのは自分であっても、形にするのはプロジェクトのスタッフたちである、ということをしっかりと理解すべきだ。
そして、スタッフを「アサイン」するだけでなく、しっかりと「エナジャイズ」し、そのアイデアとそのアイデアが解決しようとしている課題や提供しようとしている価値に対する共感をもったスタッフと物事を進めるべきだ。
顔色を伺わせるのではなく、フラットにディスカッションし、マネージメントレイヤーが「決定」するのではなく、チームメンバーで合意しながら進めるべきだ。
そうすることで、ゴールを目指すために自分が何をすべきかを、スタッフが考えるようになり、「仕事」をするようになる。
マネージメントレイヤーは「権力」がある以上、その言動ひとつとってみても、些細なことであれスタッフに影響を与える。気軽に思いついたアイデアを「やらせる」という態度で挑めば、結果的に本記事のようにスタッフたちは、マネージメントレイヤーの顔色を伺うようになるだろう。
その「アイデア」を形にするとき、大切なことがなんなのかをしっかり意識しなければ、思いつきではじめた新規事業は必ず失敗する。