- 日本はシステムの力を重視し成長を遂げた
- 個性を殺すと変化への対応力がなくなる
- 非合理な個性によるイノベーションが未来の扉を開く
イノベーションは、スタートアップの専売特許ではありません。
スタートアップにはスタートアップにしか起こせないイノベーションがあるように、大企業には大企業にしか起こせないイノベーションがあります。
例えば、日本の大企業が世界を変えた最後のイノベーションであるdocomoによる「i mode」とそれによって世界を大きく変えた「モバイルインターネット」(最終的に変えたのはAppleとGoogleだが)は、とてもじゃないがスタートアップによって起こせるタイプのイノベーションではありませんでした。
全てのイノベーションをスタートアップが担うわけではないし、担うこともできないのです。
それにも関わらず、スタートアップが積極的にイノベーションを起こしているようにみえ、大企業がイノベーションに足踏みをしているようにみえます。
実際、スタートアップの数と大企業の新規事業の数と見えやすい比較でいえば、投資などの挑戦しやすい環境整い、人材も豊富に(それこそ無限に)いるスタートアップの方が数が多くなるのは必然です。
しかし、成功確率が変わるわけではありません。いやむしろ本来なら大企業はこれまでの成熟事業で培ったアセットが潤沢にあるわけですから、成功確率は高くて然るべきです。
それでも、目を見張るような大企業によるイノベーションが、ここ日本で起きないのは何故でしょうか。
その理由は「個性」にあります。
「個性」が強いことがスタートアップの強みであり、「個性のなさ」が大企業の弱みになっている、と。
システムを整備し、ルールで管理することで日本の高度経済成長は成り立ちました。個々の力よりもシステムの力を重視しました。
これは人類の進化としては必然です。人類はそもそも有史以来個の幸せよりも集団の繁栄を選択してきた歴史があります。
全体主義は最たる例ですが、日本人はこの「集団」によるパワーが、「公の心」が圧倒的に強い国民性です。
だからこそ幾度となく訪れる国家存亡の危機さえも、次なる成長に繋げる「スクラップ&ビルド」が得意であるともいえます。
大企業は高度経済成長期にまさにこの日本人の強みを組織に内包しました。
個々の力よりもシステムの力を重視したのです。
これによって大学で実質何も学んでいないバカな若者を一括で雇用し、会社の中で「●●マン」に育成する方が効率が良くなりました。
個性など不要で、システムの歯車を従順にこなすものが求められたのです。
それは戦前も戦後も変わりませんでした。日本の教育は幼少期より工業社会における集団生活を前提として、それを刷り込んでいるのです。
日本の大企業の成長が止まった理由。その一つにはルールによる統制が行きすぎたことにあります。
コンプライアンスやコーポレートガバナンスなど、個性を殺し、システムの歯車になることを社員に強く求めました。
経済が成長している時、市場が成長している時にはそれがベストな選択だったことは歴史を見れば明らかです。
戦後の焼け野原から「Japan as No.1」と呼ばれるまでに、人類史上最も奇跡的な成長を日本ができたことが証明しています。
未来が読めない時代においては、個性を殺し、システムの歯車だけを揃えることは弱みに転じます。変化に対応出来なくなってしまうのです。
個性を殺すマネージメントは、過去に大きな成功体験があり、そこでの方法論が成立する時には、圧倒的な強みになります。
人が感情に左右されるよりも、オペレーションで合理的に判断できる方が、着々と成功体験をトレースすることができるからです。
しかし、未来を切り拓くのは個性です。個性によってしかイノベーションは起きません。
未来が読めない時代に必要なのは、過去の成功体験ではありません。ロジックではその扉は開けないのです。イノベーションは合理性によっては成し遂げられません。
イノベーションに対して必要なのは「クレイジーさ」です。
それは過去の成功体験から紡がれた合理性としての「当たり前」を否定し、それゆえ周りから「狂ってる」と言われることです。また、同時に未来の「当たり前」を定義することなのです。
そのために必要なのが「個性」です。個性とはクレイジーさそのものです。
現在の価値基準や社会規範から評価すれば非合理的であるが、個人が現場で見た事実と、検証した仮説、それに全力投球する圧倒的な熱量こそが、イノベーションを起こすのです。
本来課題はすべて現場にしかありません。会議室で考えるのではなく、現場で課題を把握することがまず最初に必要で、それは「個人」によってしか為し得ません。
そしてまた、誰しもが非合理であると考えるアイデアに全力投球することもまた、最初は「個人」でしか為し得ないのです。
大企業には優秀な人材が揃っています。スタートアップよりも優秀です。
その優秀さをイノベーションに向けるためには、既存の個性を殺すオペレーションからは切り離した、いわば「出島」的な組織において「個」の力をフル活用することが必要です。
そして、それが日本の経済に活路を見出す唯一の方法と言っても過言ではありません。