Contents
ストーリーとしての競争戦略
- 流れと動きを持った「ストーリー」(narative story)として戦略を捉える
- 戦略とは「違いをつくって、つなげる」
- 「違い」→競合他社との違い、「つながり」→二つ以上の構成要素の間の因果論理
- 個別の違いをバラバラに打ち出すだけではなく、それらがつながり、組み合わさり、相互に作用する中で長期利益が実現される
- 戦略は因果論理のシンセンス(綜合)であり、それは「特定の文脈に埋め込まれた特殊解」という本質を持つ
- 優れた戦略立案の「普遍の法則」がありえないのは、戦略がどこまでいっても特定の文脈に依存したシンセンスだから
- ストーリーとしての競争戦略
- 個別の要素がなぜ齟齬なく連動し、全体としてなぜ事業を駆動するのか
- なぜその事業が競争の中で他社が達成できない価値を生み出すのか
- なぜ利益をもたらすのか
- 戦略ストーリーが問題にするのは「why」
- 「ストーリー」とは何でないのか
- アクションリストではない
- 法則ではない
- テンプレートではない
- ベストプラクティスではない
- シミュレーションではない
- ゲームではない
- ビジネスモデルとストーリー
- ビジネスモデル
- ビジネスに含まれるさまざまなプレイヤーや機能部門の間のカネやモノや情報のやり取りである「マーケティング情報の提供」「発注」「支払」「出荷配送」といった「取引活動」を記す
- ストーリー
- 時間展開を視野に入れた因果論理(とくに、好循環の論理)を記す
- 具体的な打ち手について触れるわけではない
- ビジネスモデル
- 数字よりも筋
- ストーリーの面白さは、戦略の実行にかかわる社内の人々を突き動かす最上のエンジンになる
- 筋の良いストーリーをつくり、それを組織に浸透させ、戦略の実行にかかわる人々を鼓舞させる力は、リーダーシップの最重要な条件
- 戦略ストーリーをつくるということは、現在地や目的地や地図情報(到達すべき地点、あるべき姿としての目標、競争環境、市場環境、利用可能な経営資源、制約条件など)を記した地図の上に、自分たちの進むべき道筋をつけるということ
- 戦略ストーリーは、きわめて主体的な意思を問うものであり、前提条件を正確に入力すれば自動的に正解が出てくるような環境決定的なものではない
- ストーリーの面白さは、戦略の実行にかかわる社内の人々を突き動かす最上のエンジンになる
- 日本企業こそストーリーを
- 日本企業は相当に成熟した経営環境にあり、画期的な新製品、まだ誰も参入していない成長性の高い市場セグメントへの参入などの、派手な差別化の要素は探しても見つからない。そこで、ストーリーという一つ上位のレベルに次数を繰り上げた差別化が求められる
- これまでの日本企業はポジショニングよりも組織能力に基盤を置いていた。能力重視の戦略は、ポジショニングに比べて、時間的にも、因果論理面でも長い時間を必要とする。
- 日本企業の組織には機能分化の論理が浸透している。そこで働く人々のコミットメントも自分の機能専門性に向けられている。さらにいえば、日本企業の組織は提供する価値のありようを切り口に分化(価値分化)ている。欧米では自分が組織に提供するインプット(機能)がそのまま仕事の定義になるのに対して、日本企業では組織が提供するアウトプット(価値)が人々のアイデンティティとなる傾向になる。
競争戦略の基本論理
- 競争戦略の対象範囲
- 競争戦略は、特定の業界、つまり競争の土俵が決まっていて、ある企業の特定の事業がその競争の土俵で他社とどのように向き合うのかにかかわる戦略。企業全体ではなく特定の事業。事業戦略(business strategy)ともいう。
- 企業がどのような事業集合であるべきか。そのバランスをどのようにして構築し、最適な事業ポートフォリオにするか。そのために、どの事業に最も優先的に経営資源を振り向けるべきか。どのような分野に進出して、どのような分野から撤退するべきか。それを考えるのが全社戦略(corporate strategy)。
- 競争戦略の目的
- 長期にわたって持続可能な利益(Sustainable Superior Profit)。5年、10年と持続可能な利益を追求するのがゴールである。
- 利益の源泉
- 業界の競争構造
- そもそも利益を出しやすい業界と、出しににくい業界がある
- 「どうやって戦うか」よりも「どこで戦うか」を重視する
- ファイブフォース=業界の利益を奪おうとする圧力
- 業界内部の対抗度=参入している既存企業間の競争の激しさ
- 競争企業の数
- 市場の成長性
- 新規参入の脅威=参入障壁(参入コスト)の高さ
- 代替品の脅威=買い手にとって同じ機能やニーズを満たし、しかもそれを手に入れれば、もともとあった製品が必要なくなってしまうような製品があるか
- 供給業者の交渉力
- 買い手の交渉力
- 業界内部の対抗度=参入している既存企業間の競争の激しさ
- 戦略の必要性
- ファイブフォースがゼロベースの環境は難しい。ほとんどの企業にとって、多かれ少なかれ競争のフォースは受け入れなければならない。そのため、戦略が必要になる
- 業界の競争構造
- 戦略とは
- 競争がある中で、いかにして他社よりも優れた収益を達成し、それを持続させるか、その基本的な手立てを示すものが競争戦略
- 競争状態というのは、そもそも儲からないようにできている。競争があるにもかかわらず儲けるという「不自然な状態」をなんとかつくり上げて維持しましょうというのが競争戦略に突きつけられた課題
- マキャベリ「天国に行くための最良の方法は、地獄に行く道を熟知することである」
- 違いをつくる
- ポジショニング(Strategic Positioning)
- 企業を取り巻く競争環境の中で、他社と違ったことをする
- 程度問題としての違い(バッテリーの持続時間が長い、耐久性が高い、薄くて軽いなど)をOperational Effectivenessと呼び、SPとは明確に区別する
- 戦略はSPの選択にかかっており、OEの追求は戦略ではない
- あるOEの物差し時の上で右に行くのがベターなのか、左に行く方がベターなのか、SPがはっきりしていなければそもそもこのこと自体がわからない
- SPの戦略論を支えているのは「トレードオフ」。なにをやらないかをはっきりさせれば、他者との違いを持続させることができる
- 組織能力(Organizational Capability)
- 他社と違ったものをもつ。独自の強みをもつ
- 組織特殊性(firm-specificity)=他社が簡単にはまねできず(コスト面)、市場でも容易には買えない
- OCのカギは「模倣の難しさ」
- SPとOCの対比
- SP=「いかに競争圧力を回避するか」「無競争の戦略」
- SP志向:自らの大胆ではっきりとした戦略的選択で競争優位を獲得したい
- OC=「競争圧力を受け入れ、それに対抗しようとする戦略」
- OC志向:じっくりと体を鍛えておけば、それが後々になって効いてくる
- SP=「いかに競争圧力を回避するか」「無競争の戦略」
- ポジショニング(Strategic Positioning)
- まとめ
- 持続的な利益=(業界の競争構造←ファイブフォース)+(競争優位←SP+OC:競争戦略)
戦略ストーリーの5C
- 「ストーリー」は、「業界の競争構造」「SP」「OC」に次ぐ、第四の利益の源泉となる
- 戦略ストーリーの5C
- 競争優位(Competitive Advantage)
- ストーリーの「結」:利益創出の最終的な論理
- コンセプト(Concept)
- ストーリーの「起」:本質的な顧客価値の定義
- 構成要素(Components)
- ストーリーの「承」:競合他社との違い。SPもしくはOC
- クリティカル・コア(Critical Core)
- ストーリーの「転」:独自性と一貫性の源泉となる中核的な構成要素
- 一貫性(Consistency)
- ストーリーの評価基準:構成要素をつなぐ因果論理
- 競争優位(Competitive Advantage)
- ストーリーを構想する第一歩として、終わりから逆回しに考えることが大切で、ゴールを決めるシュートは以下の3つのうち1つに軸足を定める必要がある
- WTP(Willingness To Pay=顧客が支払いたいとおもう水準)優位
- コスト優位
- ニッチ特価による無競争
ストーリーの構成要素
- 置いた軸足に対して、効果的な「他社との違い」をおく
ストーリーの一貫性
- 3つのポイント
- ストーリーの強さ(robustness)
- 2つの構成要素において、XがYをもたらす可能性(因果関係の蓋然性)の高さ
- ストーリーの太さ(scope)
- 構成要素間のつながりの数の多さ
- ストーリーの長さ(expandability)
- 時間軸でのストーリーの拡張性・発展性の高さ
- ストーリーの強さ(robustness)
- ストーリーの筋の良さ
- ひとつひとつのパスが明確な因果論理でつながっている
- 太さは、筋の良いストーリーにとって必須条件。戦略はシンセンスであるから、複雑なものになる。だからこそ、全体をシンプルな論理でまとめあげる「太い打ち手」が必要になる
- 筋の良いストーリーには往々にして「好循環」と「繰り返し」という二つの論理のいずれか、もしくは両方が組み込まれている
- ストーリー化(戦略構築のプロセス)
- 戦略ストーリーは、特定時点で完結する意思決定やデザインの問題ではない。日々の経営の仕事の中で遭遇するさまざまな事象をストーリーの視点から考え、ストーリーに取り込み、ストーリーへと仕立てていく。この「ストーリー化」のプロセスに経営者なり戦略家の仕事の本領がある。
- 交互効果
- 一貫した戦略ストーリーから生まれる競争優位は、構成要素の交互効果(interaction effect)に立脚している
ストーリーのコンセプト
- コンセプトとは「本質的な顧客価値の定義」を意味する
- 本当のところ、誰に何を売っているのか
- 一言でいってそのビジネスが本当のところ何であり、何ではないのかを凝縮して表出する言葉
- 「誰に」「何を」を組み合わせることによって、いくつもの「なぜ」がみえてくる。コンセプトは、こうした一連の「なぜ」に対する答えを含んでいないといけない
- コンセプトづくりにとって大切なこと
- すべてはコンセプトから
- ユニークなコンセプトの定義
- すべてはコンセプトのために
- 構成要素はそれぞれ軸足と明確な因果論理でつながっている必要があるが、それと同時に、すべての構成要素がコンセプトの自然な帰結である必要がある
- 誰に嫌われるかをはっきりさせる
- ターゲット顧客から徹頭徹尾喜ばれるということは、ターゲットから外れる顧客にはっきりと嫌われるということ
- コンセプトは人間の本性をとらえるものでなくてはならない
- 人はなぜ喜び、楽しみ、面白がり、嫌がり、悲しみ、怒るのか、何を欲し、何を避け、何を必要とし、何を必要としないのか
- 顧客価値の細部についてのリアリティを突き詰める
- 一番リアリティのある「なぜ」は自分自身の生活や仕事の中にあるはず
- すべてはコンセプトから
ストーリーのクリティカル・コア
- 戦略ストーリーの一貫性の基盤となり、持続的な競争優位の源泉となる中核的な構成要素
- クリティカル・コアの2つの条件
- 他のさまざまな構成要素と同時に多くのつながりを持っている
- クリティカルコアとコンセプトはストーリー全体の一貫性を高めるうえで、車の車輪のような役割を果たす。すべての構成要素がコンセプトと強い因果論理でつながっていれば、ストーリー全体の一貫性が高まる。それと同時に、数多くの構成要素と同時につながりを持つクリティカル・コアがあれば、ストーリーを太くすることによって一貫性を強化することができる
- 一見して非合理に見える
- 部分的に非合理に見える要素が、他の要素との相互作用を通じて、ストーリー全体での合理性に転化する
- 排除の論理:競争相手が「まねできなかった」のではなく、そもそも「まねしようと思わなかった」ことにこそ、競争優位の持続性の論理において、決定的となる
- 自滅の論理:模倣そのものが交互効果の不全を引き起こし、企業間の差異を増幅させる
- 他のさまざまな構成要素と同時に多くのつながりを持っている
- 競争優位の階層と持続的優位の源泉
- Level 0: 外部環境の追い風
- Level 1: 業界の競争構造 →先行性
- Level 2: 組織能力 →暗黙性
- Level 2: ポジショニング →トレードオフ
- Level 3: 戦略ストーリー →一貫性・交互効果
- Level 4: クリティカル・コア →動機の不在、意図的な模倣の忌避
戦略ストーリーの「骨法10カ条」
- エンディングから考える
- 「普通の人々」の本性を直視する
- 悲観主義で論理を詰める
- 物事が起こる順序にこだわる
- 過去から未来を構想する
- 失敗を避けようとしない
- 「賢者の盲点」を衝く
- 競合他社に対してオープンに構える
- 抽象化で本質をつかむ
- 思わず人に話したくなる話をする
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