経営と執行について、深く考えるきっかけがあったので、思考の整理をしてみる。そもそも、経営と執行とはなんぞや、というところから、あるべき姿まで思考を膨らませてみたい。
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取締役と執行役員の違い
経営と執行と聞くと、役職としての「取締役」と「執行役員」のロールの違いがまず頭に浮かんだ。
シンプルに定義するならば、取締役は、会社の重要事項や戦略、方針を決定するロールである。執行役員は、決定した重要実行の実行をリードするロールであり、重要事項や方針を決定する権限を持たない。
つまり、これだけを鑑みると、「経営」は取締役の業務であり、「執行」は執行役員以下従業員の役割であるといえる。
また、もう一つの違いとして、法律上に定義されているかどうか、にあるか、それは本稿の主旨から外れるので割愛する。
経営と執行の分離は果たしてありえるのか
今度は定義された業務に対する「責任」からみてみる。当然業務に対して責任が発生するのであるから、取締役は「経営」に対して責任をとり、執行役員は「執行」に対して責任をとらなければならない。
そこに基づいて、仮定の状況を考えてみたい。
既存事業の売り上げ拡大を目的に、F2層をターゲットにおいたとある商品を開発するという方針が経営判断によって決まり、執行役員以下に指示がおり、商品を開発することになった。マーケティングをかけてみたところ、どうやらF2層にはこの商品に対するニーズがないことがわかった。しかしながら、経営判断を優先し、ニーズがないながらもなんとかF2層に売れる商品を考案し、頑張って商品を開発し、販売した。しかし案の定売れなかった。
このとき、売れなかった事実に対して、取締役、執行役員のいずれに責任が生じるのだろうか。
既存事業の売り上げ拡大が主目的なのであれば、F2層に売れないことがわかった時点で事業の方向転換を図るべきで、その意味では執行役員に責任があるといえる。しかしながら、経営判断としてF2層をターゲットにおいた商品を作るという判断をしたのだから、その指示において開発を進めた執行役員に責任はなく、あくまで取締役に責任がある、ともいえる。
この場合、どちらの意見も正しく、どちらの意見も間違ってると言え、最終的に、責任のなすりつけあいになっているイメージがしないだろうか。そして、最後は立場がより弱い、執行役員以下従業員に責任が被せられているだろう。
経営と執行の分離はありえない
ここで重要なのは、どちらの責任か、という議論ではない。どうすれば目的達成ができたか、である。そう考えると、方針を決めることの責任と、それを実行することの責任を、そもそも分離したことが間違いなのではないか、と感じた。
方針を決め、執行するところまできちんと意識して取り組んでいれば、経営判断の裏にある本当に達成したい目的からブレたプロダクトがリリースされることはないはずだ。
それは、取締役と執行役員という役割の話ではもちろんない。その役割が分かれていたことが課題なのではなく、経営と執行の間に溝があることが課題なのだとおもう。
つまりは、経営と執行側(執行役員に限らず、以下すべての従業員)との意識の乖離がなく、すべからく共通認識を持っていれば、そのブレは起こりえないのではないか、ということである。
経営と執行は分離すべきではない
まず一義的に、経営たる取締役は、執行まで責任を負うべきである、と考える。事業がうまくいかないことを執行役員以下従業員に押し付けるような風潮は、おそらくどの会社でも起こり得ることだろう。しかしながら、何らか方針と乖離したり、目標と乖離したような状況が発生したとき、方針を決めている経営に責任は全くないのだろうか。
仮に、経営と執行が分離されていたとしても、監督という役割が分離されることはない。それは、一定程度の組織をマネージメントする立場に立つのであれば、必ずついてくるロールであり、責任である。そして、それは経営の立場にあるものであれば、ただ監督すればよいのではなく、それを経営へフィードバックすることも重要な役割であるはずだ。
その前提に立つならば、経営と執行は分離されるものではない。
二義的に、執行たる執行役員そして以下従業員も同様に経営に責任を負うべきである。執行の責任を押し付けられたくないが、経営の責任は経営側にあるというのでは、プロジェクトの成功を望めない。
ロールとして経営、執行がわかれていたとしても、また、経営と執行が分離されていたとしても、経営側に立つ人間が執行のすべてを把握することは不可能である。つまり、執行の現場は、現場の人間にしか把握できない。
このとき、執行も経営の視点に立つことができるのであれば、必要なアラートはすべてあげられるはずだ。経営方針の変更に寄与できることがゼロということはまずありえない。
その意味でも、執行と経営は分離してはならない。
つまり、経営と執行は、経営側からみた執行も、執行側からみた経営も、分離すべきものではなく、常に同一のものとすべき、ということだ。
経営と執行を分離しないために、経営のすべてを執行と共有する必要がある
執行側からみた経営は分離状態にありやすい。それは、経営と執行において、情報量に差があるからだ。その情報量の差が、共通認識への未達が、その分離を生みやすい。
前述の例でいえば、マーケティングでF2層にニーズがないとわかったとき、F2層への商品を販売することがゴールなのか、既存事業の売り上げ拡大がゴールなのか、が、はっきりと執行側に伝わっていなければ、F2層への商品を作ることばかりに執行側が目を向けてしまう状況は避けられたはずだ。
どの会社でもいわれている「風通しの良い会社」を、現実的にその状態にしていかなければ、経営と執行の分離は防ぎようがない。