最近、「戦略」についてディスカッションをするケースが増えてきています。ただ、一言で「戦略」といっても、人それぞれイメージするものが違い、そこに共通認識がないせいで、うまく議論が噛み合わないことも多々あります。
戦略について議論する前に、戦略とは何かということについてきちんと認識を揃える必要があるなと思い、自分の考えをまとめてみることにしました。
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日本人は、なぜ戦略を意識しないのか
まず、そもそも大前提として、日本人がなぜ戦略を意識しないのか、苦手としているのか、でいうと、戦略を描かなくとも成長する期間が長かったから、といえるのではないかと思います。
戦後の高度経済成長からバブル崩壊までの間は、大量生産・大量消費の時代でした。ビジネスモデルさえ確立すれば、あとはとにかく突っ走れば、たいていの企業が勝つことができたのです。
そして、バブルが崩壊したとはいえ、その後もそのビジネスモデルを軸に、効率化・合理化さえ追求していけば、売上は伸びずとも、利益は一定の水準をキープすることができました。
その後、日本経済は低迷が続き、アジア諸国が台頭し、さらには生産や販売がグローバル化が進みました。これまでのぬるま湯のビジネス環境が一転し、全世界の企業と戦わなければならない激しい競争環境へと突入したのです。
しかし、そのとき、日本の企業のマネージメントレイヤーにいたのは、戦略を考えずとも、とにかく突っ走ってきた世代、ないし、その世代に育成された次の世代でした。彼らも、そういう環境のなかで「戦略」という言葉は意識するようになりましたが、彼らの経験から導き出された戦略は、どれも「戦術」にすぎないものだったのです。
こうして、戦略をきちんと意識できない環境が成立してしまったのではないか、と考えます。
戦略を意識すべき理由
経営戦略と聞くと、ものすごく小難しいもので、MBAなど専門的な勉強をした人だけが描けるものだと考えがちですが、そういう側面もありつつ、まったくもってそういうわけではないことを理解しましょう。
確かに、しっかりと経営戦略論の歴史や、それぞれの理解、ケーススタディなどをしたほうが、戦略を描くときの幅は広がります。しかしながら、だからといって、戦略の正確性があがるわけではありません。
結局のところ、最終的には、それをいかに実行したか、成功するまで実行し続けたか、が最も重要になってくるわけですから、戦略をキレイに描くことはさほど重要ではないのです。
しかし、専門的知識がないから描かなくていいということにはなりません。必ず描く必要があります。
戦略とは、簡単に言うならば「これから進むべき道を決める」ということなのです。登山に例えるなら、「登るべき山を決め、地図を描き、ルートを決め、チーム編成をし、そこに持っていく道具を決める」ということなのです。
登山にいくのに、登る山すら決めなければ、何をしにいくのでしょうか?いや、そもそも家を出た直後に、どこに行けばいいのでしょう?・・・呆然としてしまいますよね。
戦略をゴールデンサークルのアナロジーで考えてみる
なので、とにかく、専門家の学術的な小難しい言葉やフレームワークなど意識せず、まずはシンプルに描くべきなのです。最初は徹底的にシンプルでいいわけです。
もちろん、その戦略を実際に実行したときの成功確率をあげるためには、専門的な知識を活用して、叩いたほうが好ましいに違いありません。ですが、特にスタートアップのようにリソースが限られている状況において、専門的な知識を持っている人がその場にいてくれるなんていう運のいいことなどほとんどありません。だからこそ、まずはシンプルに考えるべきなのです。
シンプルに考えるひとつの方法として、ゴールデンサークルのアナロジーを取り入れて整理してみました。
※ ゴールデンサークルについては、サイモン・シネック氏のTED動画か、著書「WHYから始めよ!―インスパイア型リーダーはここが違う」を御覧ください。
※ 最近、ゴールデンサークルのアナロジーが好きすぎて、人材のタイプ分類もゴールデンサークルでやったりしています。
戦略のWHYとはパッションである
戦略において、一番最初に整理すべき、一番大切なものは「パッション」です。一番戦略からはほど遠そうな情熱という感情的なものを一番最初に整理すべきなのです。
パッションこそが登山においての「登る山」です。まず一番最初に登る山を決めなければ、「地図を描き、ルートを決め、チーム編成をし、そこに持っていく道具を決める」ことはできません。
ビジネスというものを突き詰めてシンプルに定義するならば、「ユーザに価値を提供し、満足していただき、それに対する対価として金銭を受け取ること」に他なりません。
つまり、ビジネスの登る山とは「ユーザに満足をしていただく」ということであり、戦略におけるパッションとは「ユーザにいかなる価値を提供し、世界をどう変えるか」という心の底から湧き出る熱い思いのことなのです。
まず、最初にこれを整理しましょう。
戦略のHOWとは取捨選択である
パッションを定めることができたら、次に行うのは取捨選択です。パッションを実現するために、何をやるべきで、何をやらないべきなのか。特に、何をやらないべきか、を決めるのが大切です。
何をやるべきか、というのは、仮置きでやるべきことを決めて、実際に動いてみながら軌道修正していく方法でしか正解を得ることはできません。登る山に対して、最短距離のルートがどこにあるかわからず進むのですから、ひとつひとつ最短距離と思わしきルートを虱潰しに確認していくしかありません。
しかし、何をやらないべきか、というのは、今すぐ決めることはできます。自分たちの置かれている状況、環境、リソースや強み、弱みなどを鑑みて、やらないことを決める、というだけですから。
山に登るのに重たいベッドを一生懸命運ぶ必要はありませんよね?寝袋一つでいいはずです。断崖絶壁をよじ登るのに、未経験の肥満体型の人を連れて行ったりしませんよね?まさか、山に登る直前に居酒屋でたらふくビールを飲んだりしませんよね?
パッションを実現するために遠回りになることをやらない、と決める。戦略とはある意味、やらないことを決めることと同義といっても過言ではありません。
戦略のWHATとはストーリーである
パッションを決め、やるべきことの取捨選択をした戦略の最終アウトプットは「ストーリー」であるべきです。誰もがそれを聞いて、納得し、理解し、共感し、熱狂するようなストーリーこそが、戦略なのです。
戦略とは、ただ自分の頭を整理するだけの行為ではありません。自分だけが満足することに意味はありません。
戦略は必ず誰かに説明するものです。チームメンバーであったり、アライアンスパートーナーであったり、株主であったり…。すべてのステークホルダーに説明すべきものです。
特に、チームメンバーに対しては、それを聞いた人が自らのロール(役割)においてなにをすべきかが自ずとみえてくるようなものであるべきです。業務指示を出さずとも、チームが機能し、目指すべきパッションへと、チームの一人ひとりが自ずと向かうようになる。それこそが、パッションドリブンな組織です。
戦略とは、パッションを定義し、やるべきことを取捨選択し、それを語り、納得し、理解し、共感し、熱狂させるためのストーリーなのです。