スタートアップの初期メンバーがスケール後にお荷物になる理由

スタートアップだとしても、人事を軽視すべきではない」でも書きましたが、スタートアップの最初期に採用したメンバーは、会社がスケールするとお荷物社員になりえます。たいていのスタートアップで対処に困る社員が出てきます。

当然、会社のスケールとともに成長する人材も一定数います。スケール後、現場叩き上げの取締役として活躍を続けている方も大勢いらっしゃいます。

しかしながら、大多数は会社に巣食う癌のように、お荷物社員として残り続けているのです。

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スタートアップの初期メンバーがお荷物になってしまう理由

自分が会社を成長させたという根拠の無い自信

お荷物になるということは、成果を出せていないということ。にもかかわらず、このお荷物社員たちのほとんどは自分がお荷物だと考えてはいません。むしろ、スケールさせたのは自分の力なのに、なぜ冷遇されているのか、とさえ思っているのです。確かに、スケールさせた際に、ほんの少しだけでも貢献はしたでしょう。それは否定すべきものでも、されるべきものでもありません。

しかし、それはすでに過去のこと。それが1年前のことでも1日前のことでも、過去のことなわけですが、お荷物社員は、会社の状況が変化しているにも関わらず、過去の栄光にすがり、自身を成長させることをサボったためにお荷物になってしまっているのです。

優秀な人材は、会社がスケールするタイミングで、強烈に自分を追い込み、同じようにスケールしていきます。筋肉が過負荷をかけることで成長するように、スタートアップのスケール時は、圧倒的に人材が不足していますから、幅広い業務領域を任され、業務過多の状態が続くので、成長しやすい環境と言えます。

しかし、お荷物になる社員はここで成長しないし、できなかった人たちです。会社がスケールしたという結果に対して、それが自分の力によってなされたことであるという自信を強く持ち、その自信が強すぎるがゆえに、満足してしまったから。

ビジョンへの共感が逆に足かせに

初期に採用したメンバーというのは、一番最初に掲げたビジョンに共感して、リスクをとってでもその実現に協力したいという思いを持って入社しました。そして、今でもそのビジョンに共感しています。それを胸に今日まで走り続けてきたのです。

しかし、経営というのはフェーズによって会社のかじとりを繰り返すものです。細かな軌道修正の積み重ねが経営です。その結果、最初に掲げたビジョンからは遠く離れた場所で成功したということも多々あります。

マネージメントレイヤーは、この修正を実体験が伴って感じているため、継続的な変化ととらえることができます。しかし、お荷物社員は成果を出していないわけですから、そこに関わってはおらず、また、マネージメントレイヤーからの説明の本質も理解できないがために、断続的な変化ととらえます。つまり、ネガティブな意味で「変わってしまった」などととらえるわけです。

そうなると、例えば、事業規模が大きくなれば必ず訪れるオペレーションの効率化などの局面で、足を引っ張ることになるのです。「あの当時掲げたビジョンからしたらそんなことはやるべきではない。それではいいサービスは作れない」などと言いながら。

経営メンバーと仲が良いことが価値だという勘違い

たいていのお荷物社員は、経営メンバーと仲が良いことを頻繁に自慢します。仲の良さと仕事の出来不出来は無関係にもかかわらず。そして、悲しいかな、たいていその仲が良かったエピソードは最近の話ではなく、昔の話なのです。

お荷物社員だけがそう思っているのであれば、ただお荷物、というだけで済むのですが、ここで問題になるのは、経営者の姿勢です。

経営者が、仲が良いだけでスキルも成果もあげていないお荷物社員を重用すると、他の社員から見たら、それは「政治」ととらえます。政治をしなければ、仕事は進められないと。しかもそれは、経営者が意識しているとしていないとに関わらず、周りの社員はそう見てしまうのです。

提供するスキルに見合わない給与

お荷物社員もずっとお荷物だったわけではありません。それなりに成果は出してきているはずです。スタートアップの最初期は、仕事はいくらでもあって、人が全く足りない状況なわけですから、どんなにスキルのない人であったとしても成果を出せる機会はあるわけです。優秀な人がやればもっと成果が出せたかもしれないが、どんなに小さくてもその時の成果は成果なわけです。

そのため会社のスケールに合わせて、徐々に給与は引き上がってきています。しかしながら、お荷物社員は、当然今の状況に見合った成果はあげられていません。にも、一度上がってしまった給与は、日本においてはよほどのことをしない限り下がりません。成果はあがっていないのに、高い給与は維持され続けるのです。。

この人件費の高騰は、会社のコスト構造を圧迫し、いざというときの経営基盤が脆弱な状態になる要因となります。

無駄に高い影響力と経営者批判

どんなにお荷物だとしても、無駄に一定層には影響力を持っていたりします。初期からいるメンバーはそれなりに尊敬されるものです。リスクをとってスタートアップにジョインしたことそのものは尊敬に値することですから。

しかしながら、それに甘んじているのがお荷物社員です。自分の影響力を知った上で、簡単に経営批判します。特に一番聞かれる批判は「今の会社の方向性は間違っている。社長は変わってしまった」というもの。

社長が変わってしまったことが悪いのでもなく、会社が今向いている方向が悪いのではなく、お荷物社員が変わらないことが悪いのです。日々刻々と会社の状況もマーケットの様相も変わっていく中で、常に変化させていくのが経営であり、社員一人ひとりも変化していかなければならないのです。変化こそが成長であると。

しかし、お荷物社員は変化していないからお荷物なのですが、それを理解できない。断続的な変化に拒否感を示すのです。そして懐古主義になっていく。

それを不満に思うのなら、辞めてくれればお荷物じゃなくなるのですが、会社にしがみつくからお荷物なのです。そして、不満を周りに言いふらす。多少たりとも影響力があるがために、腐ったみかんが周りを腐らせることになりかねません。

初期メンバーをお荷物にしないためには

お荷物にしないためにとるべき選択肢は2つあります。

シードフェーズから人事をしっかり考える

お荷物社員がお荷物になったのは、経営者のせいです。経営者がスタートアップだからと人事を軽視した結果なのです。

人の成長とは、最終的には、その人本人の責任です。本人が成長のための何かに気付かなければ成長することなど不可能です。しかし、マネージメントとして、その気付きをリードすることはできるはずですし、それをリードするのがマネージメントです。

人事の仕事は、本質的には事業を成長させるために、スタッフを成長させることにあると思っています。そのために必要な制度を整えたり、オペレーションを作ることがタスクです。

スタートアップは事業にフォーカスするために、人事を軽視しがちですが、軽視することで経営的負債は積み上がっていきます。その結果の一つがお荷物社員なのです。

しかしながら、お荷物社員というのは、初期に採用し、成長後まで在籍した人物は、ビジョンに共感してここまでついてきてくれた人材に他なりません。企業がスケールした今、企業とともにこの人材が成長してくれたら、すごく強いはず。

経営的負債を作らないために、人事は軽視すべきではありません。

とっとと辞めてもらう制度にしておく

人事というのは専門領域であり、かつ分業化が進んでいる領域でもあるので、スタートアップの初期フェーズに全てがまかなえる人材を雇えることはほとんどありません。そのために、人事を軽視せざるをえない状況です。

また、どんなに人事に力を入れたとしても、お荷物社員は現れます。それは仕方がないことです。

であれば、お荷物社員は出てくるという前提に立ち、そのお荷物社員がとっとと辞められるような、辞めさせられるような制度を作る、というのも経営的負債を積み上げないための一つの手です。

例えば、ストックオプション。多くの企業がロックアップ期間を設けています。3〜5年が普通でしょうか。しかしながら、それはお荷物社員に会社にしがみつく理由を作るだけです。大半はお荷物社員になります。その前提に立てば、全員にロックアップ期間を設けることは、負の面の方が大きいということです。

もし、僕が制度設計をするのであれば、すべての社員に配るストックオプションにロックアップ期間は設けません。そして、本当に優秀な社員で、長く働きたいと思った人にだけ、ロックアップ期間を設けた種類株式を与えます。

全社員に対して、リスクをとってスタートアップにジョインしてくれたことに対するリターンの機会は提供しつつ、さらに頑張るための、頑張って成果を出した結果に対する報酬としての人参を作るわけです。

これでお荷物社員になる人はとっとと辞めてもらえるし、頑張った社員にはその頑張りに応えることができる。

まとめ

人というのは、千差万別です。同じ組織というのは一つもありません。類型化はできたとしても、それぞれの組織に対応する答えは全て違うわけです。

まずどういう会社にしたいか、という本質的な思いを明確にし、それに基づいて、全体像を意識しながら、人事制度を整えましょう。

一つの例としてストックオプションをあげましたが、もちろん、人事制度というのはこれだけではありません。一つひとつをきちんとやることも大事ですが、単発で考えてしまうのではなく、会社の目指すべき方向、大切にすべき価値観に基づいて、全体像を見ながら設計すべきです。

▼スタートアップの初期メンバーがお荷物になってしまう理由
1. 自分が会社を成長させたという根拠の無い自信
2. ビジョンへの共感が逆に足かせに
3. 経営メンバーと仲が良いことが価値だという勘違い
4. 提供するスキルに見合わない給与
5. 無駄に高い影響力と経営者批判

▼初期メンバーをお荷物にしないためには
・シードフェーズから人事をしっかり考える
・とっとと辞めてもらう制度にしておく

ビジネスクリエイター、インキュベーター、アクセラレーター、コンサルタント。エンジニアとして、PHP/HTML/CSSのマークアップ言語によるWebサイトの制作、SEOエンジニアリング、アクセス解析アナリストを経験した後、IT領域の技術/潮流をベースとしたエスタブリッシュ企業向けのコンサルタントを経て、複数のIT企業にて、Web/アプリ系、O2O系、IPライツ系の新規事業立ち上げに注力。事業開発から経営企画業務まで、事業および会社立ち上げに関する業務を幅広く経験。また、シードフェーズのベンチャー複数社の立ち上げへの参画や経営戦略・組織戦略・PR戦略へのアドバイザリー、メンター、複数のアクセラレーションプログラムのメンターも手がける。