「エンジェル投資家の皮を被った狡猾な大人に騙されるな」という記事で、エンジェル投資家も玉石混淆であり、エンジェルではないエンジェル投資家に気をつけるべき、という主旨を述べた。
本稿ではもう少し踏み込んで、起業家が狡猾な大人である投資家に騙されないために何をすべきかを、具体的に書いてみようと思う。
Contents
(1) たった一度しか会っていない人を信用するな
どんなに美人で可愛い女性に対しても、どんなにイケメンでオシャレな男性に対しても、会った初日にプロポーズすることなどないだろう。プロポーズはおろか、恋人になろうということもない。相性が合うかどうか、一緒にいて居心地が良いか、その人が恋人にふさわしいか、一生涯の伴侶としてふさわしいかを、かなりの回数と期間を重ねてから判断するはずだ。
投資家とのマッチングはそれと同義だ。なぜならば、事業、会社という「一生涯」を共にする伴侶のようなものだからだ。相性が合わないと最悪な結果を迎える。
きちんと同じ方向を向いて、同じ思いを持って事業と向き合えるかどうか、相性が合うかどうかを、それなりの回数と時間をかけて確認すべきだ。
(2) 既存投資先の経営者から評判を聞く
既存投資先の経営者こそが一番の評価者である。いい面も悪い面も知っているだろう。もしかしたら、その投資家から投資を受けたことを後悔しているかもしれない。そういった生の声は、ぜひ聞いてみるべきだ。
今のご時世、直接の知り合いでなくても、facebookを通せば、気軽にその経営者にコンタクトをとることはできるだろう。その労力を惜しんではいけない。
(3) ステークホルダーではない第3者から評判を聞く
既存投資先の経営者は、とはいえ一番のステークホルダーだ。むやみやたらに、悪い評価は口にしてくれないかもしれない。いい評価しか出てこなかったとしても、それを真正直に信じられるかどうかはわからない。
とすれば、ステークホルダーではない第3者の評価も聞くべきだろう。投資先の経営者よりも、よりリアルな評価や人柄を聞くことができるだろう。
そんな人どこにいるのか?確かにそういう客観的な評価が出来る人に会うのは難しいかもしれない。
しかし、それもfacebookを見れば良いだろう。その投資家のページにいって、友達一覧を見れば、ひとりくらいは共通の友達がいるはずだ。その友達は投資家としての活動は知らないかもしれないが、人となりぐらいは知っているはずだ。信用に足る人物かどうかさえ聞ければ、判断材料のひとつになる。
(4) たった1人を信用してはいけない
ここまでをやって、いい評価ばかりだったとしても、そこで即断即決すべきではない。なぜならば、もっといい人がいるかもしれないからだ。そう、あなたの運命の人は、今目の前にいる人とは限らない。
セカンドオピニオン的に複数の候補に対して、(1)-(3)を繰り返そう。ある投資家が言ったことは、ある投資家は真逆のことを言うかもしれない。複数の意見を耳にして、どれが自分の考えとマッチしているか確かめよう。
(5) 買取請求や個人保証・連帯保証のような条項を契約書に盛り込まない
これが最も現実的に確認すべき事項だ。起業家にとって最も不利になる条項だからだ。
投資はリスクマネーである。リスクをとって投資をするからこそ大きなリターンが得られる。投資家は、そこでの経済活動としては、当然のこととして、リスクを最大限ミニマム化し、リターンを最大限大きくしようとする。
投資家にとっては、買取請求や個人保証・連帯保証の条項を勝ち取れた投資は、リスクが相当な割合で低くなる。願ったりかなったりだ。しかし、起業家にとっては、この投資は、融資や借入とあまり変わらないものになってしまう。
この条項は絶対に受け入れてはいけない。受け入れざるを得ないのであれば、それを受け入れるかわりに、株式の保有比率を引き下げるなどのバーター条件は提示・調整すべきだ。
(6) 読んでわからない条項がある契約書にサインしない
上記以外にも、起業家にとって不利になる条項があったらサインはすべきではない。
しかしながら、不利になる条項は、プロであればあるほど、素人の起業家にはわからないようにしてある。
読んでみてよく分からないと思ったら、その契約書にはサインしてはならない。あまりに手の込んだ条項は、言外の意図を含んでいると推し量るべし。
(7) 不利な契約書を押し付けられるようなタイミングで資金調達しない
そもそも、不利な契約書を押し付けようとするということは、立場として投資家のが上のタイミングだ。シードフェーズだったり、プロダクトがまだ成長軌道に乗っていなかったり。リスクが高いと思えるからこそ、投資家はリスクを回避しようと、起業家に取って不利な条件を押し付けようとする。
明らかに成長軌道に乗っていて、上場やExitが見えている企業であれば、起業家が投資家を選べるという意味で、立場が上になるわけであって、その状況であれば投資家は、不利な条件を押し付けようとなどしないだろう。(むしろ、ぜひ投資させて欲しいと下手に来るはずだ)
なるべくシードフェーズは自己資金ないし親や親族からの借入、政策金融公庫などの低金利融資でつなぎ、無目的の出資受け入れはすべきではない。
(8) 最終的には倒産・破産という選択肢もあることを頭に入れる
たった一度の人生だが、チャンスは今しかないわけではない。チャレンジは今しかできないわけではない。
最終的に、最後の最後の選択肢もあることを頭にいれて交渉しよう。
もし、不利な条件で契約を締結してしまい、買取請求されたとしても、弱気になる必要はない。命までは取られない。
もしその投資家に何らかの形で悪評を持たれてしまったとしても、二度目のチャンスは絶対にある。投資家はあくまで投資家だ。一回目の投資で仮に損失を被ったとしても、二回目が絶対的に成長することが見えていれば、その時は手のひらを返すだろう。
経験がなかろうが、年齢が若かろうが、無駄に弱気になったり、下手に出る必要は絶対にない。
投資家との情報格差をなくし、対等に向き合おう
日本においては、まだまだ投資家は玉石混淆だ。それはいい意味でも悪い意味でも。そして、玉か石かはわかりにくい。
それは、起業家と投資家には情報格差があるからだ。もし「狡猾な」という起業家にとって不利となるような「石」の投資家にあたってしまっても、それが「石」かどうか見抜けないだろう。
ネット上や書籍にもまだまだ投資に関する実のある情報は少ない。それは契約に関連するから当たり前で、短期的にその情報が簡単に手に入る世の中になるとは考えないほうがいいだろう。
その前提に立った上で、とはいえ経験者はソーシャルメディアの功績によって、思った以上に身近にいるはずで、情報収集の為の労力は絶対に惜しんではいけない。