複数の企業において新規事業立ち上げを行なってきたシリアルイントラプレナーが、そこで繰り返してきた失敗を主観的に、客観的に記す「イントラプレナー(社内起業、新規事業)の失敗学」。
今回は、新規事業を立ち上げるために必要なカルチャーについて。
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ウォーターフォール型ではスケールする事業は生まれない
ヒエラルキー型組織にどっぷりつかった担当者は、ウォーターフォール型の事業開発しか知らない。
プロダクトリーダーの役割をプロジェクトリーダーやプロデューサーが持つ。そこには、すべての決定権があり、何から何までたったひとりが決める。異論は許さない。
現場スタッフは、天からおりてきた事業計画書、設計書通りにプロダクトを作る。異論は挟めない。
これがうまくまわるのは、高度に運用がオペレーション化された既存事業だけである。
また、新規事業であっても、既存事業であっても、これでは、プロジェクトリーダーの器以上にスケールする事業はうまれない。その人間の知見以上のものを事業に反映させることができないからだ。
このスタイルでうまくいくのは、ソフトバンクの孫正義氏や、楽天の三木谷浩史氏のような、ずば抜けた能力、頭脳そしてビジネス感覚を持った人間だけだろう。
新規事業では「共創」を意識する
新規事業をつくるためには「共創」であるべきだ。
事業をつくるためのプロセスを整えるファシリテーターが、あるべきプロセスに沿って事業企画を練るようにうまく議論を誘導する。
その議論は、事業のWHY、HOW、WHATを組み上げるすべてのプロセスで行う。
参加者は、いわゆるプロデューサーやディレクターだけでなく、プロダクトそのものの開発に関わる、エンジニアやデザイナーも、全員だ。
全員で、ユーザゴール、ビジネスゴールを認識した上で、総意をもとにひとつひとつ詰めていく。あくまで多数決ではなく、総意をつくりあげることを目指す。
上流工程が総意で決まれば、下流工程のために設計書をつくる必要がなくなる。全員がゴールを認識しているので、それぞれのロールに基づいて、なにをすればゴールに近づくことができるのかを、それぞれが考えられる環境ができあがっているからだ。
当然、最終意思決定者で、プロダクトに責任を持つプロダクトマネージャーの存在はあるべきだ。常に総意になるとは限らないし、総意が正しいとも限らない。そのときに、議論を正しい方向に戻したり、結論を受け入れずに議論を継続させたりする判断を非恣意的に行う役割を担う。
これによって、プロジェクトリーダーの器ではなく、チーム全体の器まで、事業がスケールする可能性が広がる。
と、同時に、上流工程での総意がきちんとできていれば、下流工程のスピードが速くなる。仕様書を作って、承認して、説明して、というプロセスが省かれるからだ。
こうして、PDCAサイクルをスピーディーにまわすことができるようになる。新規事業において、なにをおいてもスピードが一番重要だ。
新規事業の成功確率は低い。それが失敗に終わったときに何を得ているか、は、意識しておく必要がある。
そのひとつはチームであり、「共創」の文化だ。それがあれば、次の新規事業の立ち上げにつなげることができる。
「共創」は「意見調整」ではない
間違えていけないのは、「共創」は「意見調整」ではないことだ。
マネージメントレイヤーの意見は、現場スタッフは受け入れざるを得なくなる。そうすると、それは、総意ではなく、押し付けになり、それを受け入れた結果は「意見調整」したものになってしまう。
新規事業のチームにヒエラルキーを持ち込むと、どうしてもそうなる。自身の人事評価権を持った人間の意見にノーとは言いづらいからだ。
こうして、いろんな意見を取り入れていった結果、プランから尖ったものがなく、悪い意味でうまくまとまったツマラナイプランが出来上がる。
「共創」は、「意見調整」ではない、まんべんなく意見を言い合った結果として、「総意」を作るものだ。この違いはしっかり理解しないといけない。