複数の企業において新規事業立ち上げを行なってきたシリアルイントラプレナーが、そこで繰り返してきた失敗を主観的に、客観的に記す「イントラプレナー(社内起業、新規事業)の失敗学」。
今回は、新規事業担当者と既存事業を管轄しているマネージメントレイヤーとの関係性について。
新規事業の担当者と既存事業を管轄しているマネージメントレイヤーは、距離を置くべきだ。もし、物理的に距離がとれるならそれがベストだが、それが難しくとも、少なくともレポートラインは変えるべきだ。
マネージメントレイヤーの善意の介入は、新規事業にとって足枷にしかならない。
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マネージメントレイヤーへの顔色伺いは、何の価値もない
新規事業の担当者は、人事権を持っているマネージメントレイヤーには、やはり逆らいにくい。ヒエラルキー型組織であれば、それはどうやっても防げない事象だ。
マネージメントレイヤーにある人間がふらっとプロジェクトチームのところにきて、立ち話程度に現状を聞き、「それじゃあだめだ」とノーを突きつけて立ち去ったとする。
気軽な世間話的なつもりで、その人は言ったのかもしれない。しかしそこに「人事権」があると、担当者はそれを無下にできない。
無下にできないだけならいいが、それに引きずられて、その人が良しとするプロダクトや事業モデルに寄せようとしてしまうこともあるだろう。
それは、その人にとって良いものであって、マーケットにとって良いもの=受け入れられるものとは限らない。
担当者が拒絶できないのようなアドバイスはするべきではない。するのであれば、きちんと議論をする場でやるべきだ。
マネージメントレイヤーのアドバイスは、何の価値もない
マネージメントレイヤーはよく、アドバイスをしてくる。ほんとうに些細なことまで。
プロセスに対するアドバイスはぜひすべきである。例えば、事業を立ち上げるための根本的な考え方、マーケット調査のデータの見方、事業計画の引き方など。すべての事業に共通するプロセスは多い。
そこを違えてしまうと、プロダクトそのものが、マーケットに受け入れられないものになってしまう。そこを修正するのは、マネージメントレイヤーの仕事だ。
しかしながら、プロダクトそのものはどうだろう。
24時間365日、その事業のことを考えている担当者が、考えに考え抜いて出した結論以上に、良いアドバイスができる経営者などほとんどいない。
マーケットのことも、ユーザのことも、プロダクトのことも、一番わかっているのは担当者だ。経営者ではない。
経営者がすべきことは、あくまで正しい(と思われる)プロセスを踏んでいるかどうかの確認であって、最終的に出てきたプロダクトの細部へ口出しをすることではない。
(もちろん、クオリティが最低限のレベルに達していない、などは言ってしかるべきだが)
マネージメントレイヤーの成功体験は、何の価値もない
アドバイスだけならまだしも、悦に入り自分の成功体験を語るマネージメントレイヤーも多い。
しかしながら、それはそのタイミングで成功しただけであって、それが今の、しかも既存事業とは市場もプロダクトも異なる新規事業において、価値はほとんどない。
特に、既存事業にて成果を出して出世したマネージメントレイヤーの話など、ほとんどではなく、まったく価値はない。
新規事業を立ち上げる、ということと、既存事業を成長させる、ということは、似て非なるものだからだ。
もし、自身の体験談をどうしても語りたいのだとしたら、失敗体験をぜひ語ってほしい。
「成功」というのはありとあらゆる事象が複雑怪奇に絡み合って実現できたものであるから、再現する方法などないに等しい。
「失敗」をきちんと総括できていればこそ、そこに落とし穴がある、という認識ができる。その認識さえあれば、落ちることが防げなかったとしても、落ちないように努力することは誰にでもできるからだ。