8/6にスマートニュース・イベントスペースで開催されたデジタル・メディア・ジャーナリズムに関するイベント「注目すべき海外先進メディアとトレンド最前戦」に参加してきた。
今回のイベントは、LivePadにまとめているので、イベント当日の雰囲気と細かな情報を見たい方は、そちらをご覧いただきたい。
本記事では、イベントのなかで気になった点を深堀する。
メディア・ジャーナリズムの世界は今デジタル・モバイル・ソーシャルの急速な変化の最中にあり、大きな変革の時期を迎えています。
日本国内でも新しいメディア、ジャーナリズムのあり方を巡ってここ数年様々なニュースが駆け巡り、関連イベントなども数多く開催されるようになりました。
ただ、海外で起きているデジタル・メディア・ジャーナリズム分野の情報に関し、言語の壁もあり日本国内であまり十分に情報として伝わってないことがあるのではないか、という問題意識を持つ方もいらっしゃるのではないでしょうか?
今回そんな課題に対して果敢に取り組まれている方々でかつ、若い世代の論客代表として学生、編集者、経営者という立場で活躍する3名に登壇頂きます。
注目すべき海外先進メディアとトレンド最前戦 | Peatix
Contents
メディアをWebでやるべきか、ネイティブアプリでやるべきか
経営戦略上の判断としての、選択と集中
パネルディスカッションのなかで「グノシーは、ネイティブアプリを出しつつも、Webにも進出している。スマートニュースは、Webには進出しないのか」という質問が会場からあがった。
これに対し、藤村厚夫氏は「ページめくりのUXにすごくこだわっている」「両方にリソースをかけずに、ネイティブアプリに集中している」と語り、HTML5での表現の限界や経営戦略上の判断からネイティブアプリに注力している、と答えた。
また、石田健氏は「アプリは広告費をかけてマーケティングをする必要がある。まずは、SEOやソーシャルなど、なるべくお金をかけずにクリアできる技術に特化している」と答えている。
このあたりは、まさに、資金が潤沢な大企業とは違った、ベンチャー企業の戦略として当然のことといえよう。ユーザに提供するUXを大切にしてネイティブアプリに特化するか、それとも、お金をかけずにコンテンツをユーザに届けられるWebに特化するか。
ネイティブアプリをやっている企業が、いいものを作ったとしても広告宣伝費をかけることができず、売上もあげられずに、仕方なくラーメン代を稼ぐためにメディアをはじめる、ということを最近よく耳にするようになった。
「仕方なく」の選択としてはあまり良いものではない。当然、リソースは分散する。そして、ネイティブアプリとWebメディアでは、根本的にユーザに提供する最終的な価値は異なるはずだ。
最終的にユーザに提供する価値がブレず、グロース戦略等がしっかりと一本のストーリーとしての戦略になっているかどうか、は、しっかりと考えるべきだ。
ユーザに届けるのか、ユーザに来てもらうのか
大熊将八氏は、開発側の目線とは逆に、ユーザ目線でみると、ネイティブとWebではコンテンツの届け方が全く違う、と語る。「Webはコンテンツを読者のところに届けにいく。届けにいくために、Webにとどまらず、Facebook、Twitterなどのソーシャルに出していく。アプリはそれとは逆で、読者に来てもらう。マーケティングで集客し、アプリをダウンロードしてもらう必要がある。」
これは、ユーザの情報に触れる態度としてのLean Back、Lean Forwardという概念と同じだとおもう。そして、これはメディアに限らず、Web/ネイティブでビジネスをやるときに非常に重要な示唆だと感じた。
ITを活用したビジネスをはじめるときに、スマートフォン時代だからアプリは絶対に必要なものだ、という固定概念にとらわれず、そのビジネスがユーザに提供しようとしている価値を鑑みて、上記のような視点から選択すべきだ。
メディア単体でのマネタイズが難しいなら、複合体として稼ぐべき
メディアのマネタイズについての質問が会場からあがった際、石田健氏はこう語った。「ジャーナリズムで儲けるという固定概念を捨てるべきだ。人文系の研究やジャーナリズムは、長期的な目で見れば役に立つものだが、短期的に収益化ができるものではない。そのとき、儲からない、と嘆くのではなく、儲かるためにどうするかを考えないといけない。英国のガーディアン紙は出会い系も人材紹介もやっている。サン紙はカジノアプリを出して稼いでいる。複合体としてのメディアカンパニーを目指すべきだ。ジャーナリズムはそのうちの一つのひとつの要素にすぎない。例えば、メディアをバーティカルにきって、ECと組み合わせるなど、ビジネスモデルはいかようにも考えられる」
確かに、近年、「Webメディア・バイラルメディア × EC・サービスEC」はひとつの潮流になりつつある。しかしながら、その潮流はビジネスサイドからのものであった。IT技術のコスト低廉化により、ビジネスサイドがメディアを利用しやすくなったことは、誰しもが理解しているだろう。
だが、ジャーナリズムサイドからもみても、その潮流は活用できる、という、至極当たり前のことに、気付いているジャーナリズムサイドの人間はどれほどいるだろうか。いま、日本で展開しているサービスを見る限り、それほど多いようには思わない。
また、石田健氏は「メディアの未来やトレンドに興味はなく、どうやってその技術の中でコンテンツを届けるか、に興味がある」とも語っている。デジタルネイティブ、スマフォネイティブ世代からジャーナリズムとビジネスをみているからこそ、固定概念にとらわれない発想ができているのかもしれない。