以前、プラットフォームによる恣意の危険性やプラットフォームは同床異夢であるということについて、エントリーを書いた。そして再び、プラットフォーマーの恣意による、コンテンツプロバイダへの圧力が高まってきている状況になってきている。
それは、コンテンツプロバイダにとって、ビジネスの根幹ともいうべき”課金”。iPhone、Facebookがここにきて、迂回課金の禁止を標榜した。迂回課金とは、プラットフォームの課金システムを通さずに、コンテンツプロバイダのサーバーを介して課金を実現するもの。iPhone、Facebookはこれらを全面的に禁止する旨のニュースが飛び交っている。
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iPhoneの迂回課金禁止
Apple社は今月に入り、iTunes課金手数料を迂回する”自社Webサイト課金型”の電子新聞アプリを登録申請しようした開発者にiTunes課金へ移行するよう警告メールを送付開始。そのメールには「iTunes課金以外の課金システムを使うと開発者規約11.2の違反となる」「過去すでに公開されてしまっているアプリについては、iTunes課金に変更するよう6月30日まで猶予期間を与える」など、今年7月からは全面禁止にする旨が明記されているとのこと。
hon.jp DayWatch – iTunes課金を迂回する電子書籍アプリも「6月30日」まで? 米Appleがアプリ開発者に警告メール
昨夜(米国時間2/1)、New York Timesは「Sonyの eリーダー・アプリがAppleのApp Storeへの登録を拒絶された。理由はApple独自のアプリ内課金システムを利用していなかったため」と報じた。 さらに悪いニュースは、Appleはアプリ外で販売されたコンテンツをダウンロードするアプリを拒絶することにしたらしいという点だった。
だがアップルは今回のサービス開始に伴い、アプリ外で定期課金を行っている場合、同じ課金サービスを、同価格またはさらに安い価格で、アプリ内でも提供する必要が出ると説明。さらに、アプリ内からコンテンツ購入や定額課金が行えるウェブページへリンクすることも今後は禁止される。
アップル、App Store内での定期課金サービスを提供開始 − 外部システム利用者は対応が必須に – Phile-web
パブリッシャーに送られたメモがDigital Dailyに出たんですけど、それによるとこのアプリ内定期購読APIは全アプリに利用が義務付けられているようなのです(マガジンのサイトに飛ぶリンクはアプリから外さなきゃいけない)。となると話は全然違ってきますね。
パブリッシャーはアプリ外で購読サービスを販売すれば利益の100%はキープできます。が、それでもAppleのアプリ内購読は必ず使わなきゃダメで、使わないとApp Storeから追放されちゃうんだそうな。「App Storeにアプリが残るよう、コンテンツ購入用にIn App Purchase API(アプリ内購入API)を採用したアップデートを2011年6月30日までにご提出ください」とありますからね…これって定期購読を使わないアプリも全員導入なんだろか…。
コンテンツ配信でAppleのサーバーを使う人に課金するのは構わないけど、NetflixやAmazonは自社ネットワークからコンテンツ配信しているわけで、そういう会社にまでアプリから購読ボタン押したからって紹介料を課金するのはどうなんでしょう…理解できません。もしこれが本当なら合理的でも公正でもないですよ…。
(訳註:出版社や法律の専門家からは反トラスト法違反の声もあがってますが、そこまでいくにはまだシェアが少し足りないような…。新ルール適用で影響をモロにかぶるのはアマゾンでしょうね。Digital Dailyの読者さんが「NY Times for KindleがKindle for Androidにはダウンロードできるのに、Kindle for iPhoneにはダウンロードできなくなってる…新規約と関係あんのかな?」と書いてます。どうなることやら…)
Apple新導入のコンテンツ定期購読サービスは不当? : ギズモード・ジャパン
一方的な発表と不満を顕にするメディア
だが、正式発表があるや、ブーイングの嵐が起こった。The Guardianが関係者の怒りの声を拾っている。たとえば、英大手のTelegraph Media Groupでモバイルを担当するMark Challinor氏は「手数料を払うのは構わないが、30%は適正だろうか?」とAppleの取り分に疑問をなげかける。デジタル売上の10%が iPadからというFinancial Times(FT)の担当者も「今回の変更に懸念を抱いている、(自社の)ビジネスモデルを危うくする可能性がある」とコメントしている。
コンテンツ企業は個々の条件よりも、Appleの態度そのものに不信感を抱いているようにも見える。先のTelegraph MediaのChallinor氏は「Appleはすべてを知っていると思っているようだが、そうではない。(一方的に決めるのではなく)対話が必要だ」 と強調している。
自身も出版社で、今回の発表の影響を受けるThe Guardianは、出版社側の反応を”深い不信感”と形容している。非メディアの第三者としては、サンタクララ大学ハイテク法研究所のEric Goldman氏が、Wall Street Journalに「(Appleは)非常に攻撃的な立場を取っている」と批判的なコメントをしている。
音楽業界の反発も強い。新聞同様、長期的低迷している音楽業界では、Spotify、Last.fmなど、サブスクリプション形式で音楽 を提供する事業者が新サービスの影響を受ける。多くはベンチャー企業で、ストリーミングのインフラからレコードレーベルへのライセンス料など多額の初期投 資を強いられている。
Appleが売り上げの30%を得る場合、コンテンツプロバイダーには何が残るのか? 英国のオンライン音楽サービスWe7のCEOは 「成長できない」と述べ、Last.fmの共同設立者は「iPhone向けオンライン音楽サブスクリプションを殺すものだ」と怒りをぶちまける。Wall Street Journalも、「この比率(7対3)では、欧州で生き残れない」というフランスのストリーミングサービスDeezerの声を伝えている。
【Infostand海外ITトピックス】 メディア業界からブーイング App Storeの定期課金サービス -クラウド Watch
Facebookの迂回課金禁止
Facebookはプラットフォーム上で流通する仮想通貨Facebook Creditを昨年4月に発表し、開発者に対して使用するよう呼びかけてきました。
それまでFacebook上では様々なサードパーティによる決済サービスが使われていましたが、そこをFacebookが一手に引き受けようというものです。手数料が30%と高額であることから論争も引き起こしましたが、5年間のパートナーシップを締結した最大手のZyngaが利用を開始するなど普及が進んでいました。
当初、昨年12月末までに切り替えるとしていましたが、現状まだFacebook Creditを採用しないゲームやアプリも散見されます。そこで7月1日までに切り替えるよう強い態度に出たわけです。今後リリースする新たなタイトルは全てFacebook Creditを唯一の支払いオプションにし、旧作についても切り替えるよう求めています。
Facebook、7月1日までに課金をFacebook Creditにするよう開発者に通知・・・メリット/デメリットは? / GameBusiness.jp
やはりプラットフォーマーとコンテンツプロバイダは同床異夢である
プラットフォーマーとしてもビジネスとしてプラットフォームを展開している以上、利益の追求をせざるを得ない。そして、コンテンツプロバイダは、そこで収益をあげることを夢見て、算入する。両者の”収益”をあげる手段がぶつかり合わなければ、Win-Winのビジネス関係となり得る。
しかし、今回の課金、おもにトランザクションに関して言えば、多かれ少なかれぶつかり合う部分だ。プラットフォーム側といえば、これを最大化するためには、当然トランザクションを自社で独占的にしたがるし、他社より高い料率をつけたい。Appleにしろ、Facebookにしろ、現状プラットフォームとして独占的な地位にいる以上、これを強制することができなくはないわけだ。
ここでプラットフォーマーとコンテンツプロバイダは全く分かり合えるわけもなく、そしてコンテンツプロバイダは低い地位に押し込められる。
独占禁止に向け調査開始?
米国の司法省および連邦取引委員会は、この問題について内々に調査を開始したそうだ。しかし、独占禁止法への抵触と、現実的ないわば”実効支配”が及んでいるプラットフォームにおいて、それほど強い影響力/強制力を及ぼすことができないのは、歴史的経緯を見れば明らかだ。
現地時間2月18日の大手メディア各社の報道によると、米司法省および連邦取引委員会が一連の「iPhoneアプリ定期購読課金」問題について、内々に調査を開始した模様。
調査の対象となっているのは、Apple社が今週発表したiPhone/iPadアプリ向けの定期購読課金サービスの開発者向け規約部分。最新の開発者向け規約では、iTunes上で販売するアプリで独自の定期購読課金などを自前で使う場合は、iTunes側の課金も必ず使わないといけない事となっており、これが独占禁止法違反にあたってしまう疑いがあるとのこと。
とくに動向が注目されるのが米司法省側であり、まだ正式な公開調査を開始した訳ではないが、過去にGoogle Book Search和解成立やAmazon Kindleの教育機関導入を阻止した経緯から、今回のApple問題も本格介入する可能性が高いとみられている。hon.jp DayWatch – 米政府がついに動く、一連の「iPhoneアプリ定期購読課金」問題について司法省と連邦取引委員会が調査開始
Androidの動きが加速か
さすがGoogleといったところだ。反Appleの動きを見るやいなや、まだまだコンテンツが弱いプラットフォームであるAndroidへのコンテンツプロバイダの取り込みのために動き出した。
米Googleは2月16日 (現地時間)、デジタルコンテンツ向け課金プラットフォーム「Google One Pass」を発表した。前日にAppleがiOSアプリ用のデジタルコンテンツのサブスクリプションサービスを開始したばかりだが、OnePassはWebサイトを中心に、モバイルアプリを含む様々なコンテンツ配信をサポートする。より柔軟で拡張性の高いサービスと言える。
One PassはGoogle Checkoutをベースに、クラウドに置かれたデジタルコンテンツの有料配信を管理する課金システムだ。電子メールアドレス/パスワードを用いてシング ルサインオンするだけで、ユーザーがデジタルコンテンツを購入したり、コンテンツにアクセスできるシンプルさが特徴の1つ。モダンブラウザを備えたデバイ スで利用できるほか、モバイルOSの利用規約で認められていればモバイルアプリにも組み込めるため、パソコン、スマートフォンやタブレットから幅広く利用 できる。
料率が10%となることは対抗措置として素晴らしいものであるが、なにより特筆すべきなののは、迂回課金が可能となりそうだというところだ。
現在Googleは、米国、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国などの一部のパブリッシャにOnePassを提供している。OnePassのWebサイトでは売上げ分配率を明らかにしていないが、New York TimesによるとGoogleは売上げの10%を徴集する。Androidアプリのアプリ内課金を用いた場合、Googleの取り分は30%になるが、Androidではアプリ外部へのリンクが禁じられていないため、パブリッシャのWebサイトにユーザーを転送してモバイルブラウザで支払いを完了してもらう方法が可能と指摘している。デジタルコンテンツの課金プラットフォームで議論となっているパブリッシャとの契約者情報(名前/電子メールアドレス/郵便番号など)の共有はオプトアウト(ユーザーの拒否がオプション)形式だという。Appleのサブスクリプションサービスはオプトイン(ユーザーの承諾で共有)形式だ。
Googleもコンテンツ課金サービス発表、柔軟性でAppleに対抗 | ネット | マイコミジャーナル
Androidの普及が着々と進む中、iPhone陣営、Android陣営がどういう手を打って出てくるのか、Facebookは寡占状態が進む中、今後どのような展開を見せるのか、コンテンツプロバイダは肝を冷やしながら注視する状況が続きそうだ。