ありたい姿を定義し、スローガンを作る 〜イントラプレナーの失敗学

イノベーションの風を社内に吹かせたいと、どんな企業の経営者も考えていることと思います。社員それぞれがイノベーションを起こせるようになり、既存事業を再成長させ、新規事業をスケールさせ、さらなる飛躍を会社にもたらしたい、と。

そのとき、経営者がまず最初にやるべきことはなんでしょうか。スタッフの尻を叩くこと?外部から優秀な新規事業経験者を雇うこと?とにかく新しい取り組みに着手させること?

ボクはそれを「ありたい姿を定義し、スローガンを作る」ことだと考えています。そしてそれこそが経営者が継続的にやり続けるべきことだとも。

facebookの初期に掲げていたスローガンとは

facebookの初期、マーク・ザッカーバーグは「何を壊してもいいから全速力で動け」というスローガンを掲げていました。

ザッカーバーグは、イノベーションを非常に重視したのです。企業の成長には、イノベーションを起こすことがもっとも大切である、と。そして、同時に、イノベーションは大きなリスクが伴うことも理解していました。
それをメンバーに理解させるために、このスローガンを掲げたのです。「何を壊しても」という、普通の会社では考えられないようなショッキングな内容は、メンバーに立ち止まって考えさせるようなパワーがありました。そして、メンバーは「イノベーションを起こすことを再優先にして動けば、何かを壊すことになるのは避けられない」ということを理解するのです。また「何かを壊すことを恐れて、イノベーションを避ける人間はこの会社には不要である」ということも。

たった一文のスローガンで、facebookではどういう働き方が望まれるのか、評価されるのかを理解させるほどのインパクトがあったのです。

短くキャッチーなスローガンに、イノベーションの「意味」をこめよう

どの会社でも、ビジョン・ミッション・バリューステートメントは定義されているでしょう。企業の理念や活動目的、社会的使命、そして行動規範など。しかしながら、大抵それはイノベーションとは直接的に関係があるものではありません。これとは別にイノベーションに対するスローガンを考えるべきです。

偉大なイノベーションとは、まず「意味」をつくることから始まります。あなたの会社がイノベーションを起こすことで、ユーザに、社会に、日本に、そして、世界にどんなインパクトを与え、何をディスラプトし、そして、どういう世界を創ろうとしていくのか。なぜイノベーションを起こすべきなのかを、きちんと言語化しましょう。

また、スローガンはなるべく短い言葉で定義すべきです。社員誰もが、目指すべきイノベーションで何を実現するのか、自社の商品やサービスで何ができるようになるのか、すぐに理解して、考えることができるように。

スローガンができたら、とにかくアピールし続ける

スローガンができたら、それを社内外にアピールしましょう。

スローガンを作っただけで、そしてそれを壁に貼っただけで、いくら社員であってもそれが伝わるわけではありません。まず最初にやるべきは、月例や週例の会議などで、ことあるごとにそれを繰り返し語ることです。

規模の大きい会社であればあるほど、経営者が「社員が理解しないのは、社員が悪い」という態度をとる傾向があるように感じます。それは違います。社員が覚えていない、理解していない、理解した行動ができていないのであれば、旗振り役の経営者がすべて悪いのです。経営者が覚えさせるような、理解させるような、理解した行動をさせるようなところまでやりきっておらず、社員のせいにして責任を放棄しているから、社員ができていないのです。

一にも二にも繰り返し語ること。まずはそこから始まります。口うるさく口酸っぱくとにかく語りましょう。社員すべてがそのスローガンを覚え、理解し、理解した行動をとるまでとにかく語り続けましょう。あなたの思いは、あなたはすべて理解しているでしょう。しかしながら、他者がそれを理解するのは、どんなに親しい存在であったとしても、時間はかかるのです。それが、距離の遠い一スタッフであれば、なおさらです。それを一足飛びに行う方法などありません。一にも二にもとにかく繰り返し語りましょう。

状況にあわせて、変えていく

一度作ったスローガンが、何年もの間通用することはありません。時代は変化していくのです。技術は進歩していくのです。そのときそのときにあったスローガンを立てなおしていく必要があります。(まさか、ビジョン・ミッション・バリューステートメントを一度も変えたことがない、なんてことはありませんよね?)

例えば、1800年代の終わりから、1900年代の初めにかけて、家庭に冷たい氷を届けるために、採氷業者は凍った湖から巨大な氷の塊を切り出していました。その30年後、製氷工場がイノベーションを起こし、採氷業者は倒産に追い込まれました。さらに30年後、冷蔵庫が一般に普及し、B2C向けの製氷工場は同じように倒産に追い込まれました。

自分たちが現在提供している商品やサービスが、一生同じように価値を提供し続けることはありません。かならずどこかのタイミングで破壊的イノベーションが起き、そして、衰退に向かうのです。

そのときに大切なことは、「顧客はどのような価値に対して対価を払っているのか」「本質的に顧客が求めていることはなんなのか」を理解することです。採氷業者、製氷工場、冷蔵庫会社のユーザーはみな、同じことを求めていました。それは、食品を長時間保存することです。この先、破壊的イノベーションが起き、コンパクトに冷やすことも必要なく食品を保存することができれば、冷蔵庫そのものは不要になるでしょう。(例えば、ドラえもんの道具「グルメテーブルかけ」のように、瞬時に料理を調理する技術が開発されれば、そもそも食品を保存することが必要なくなります)

人の想像には限界があります。100年先を見通すことなどできないのです。採氷業者は、冷蔵庫の出現をイメージして、先を越した戦略を立てることなどできなかったでしょう。その「できない」ことを理解し、そのうえで、技術革新のスピードが早い昨今ですから、「顧客はどのような価値に対して対価を払っているのか」「本質的に顧客が求めていることはなんなのか」を常に自問し、スローガンを見直し続けることが大切です。