成長の速度が、見える景色を変える

同じ10人の組織でも、その10人が見ている景色は、全く異なることがある。

ゆっくりと着実に成長してきた10人。急激な変化の渦中にある10人。規模は同じでも、そこで得られる経験、身につく感覚、形成される世界観は、根本的に違う。

速度がもたらすもの

急激な成長は、特殊な経験を生む。

昨日までの常識が今日は通用しない。先週決めたルールが今週にはもう古い。人が増え、役割が変わり、組織の形が日々変容する。この変化の速度のなかで得られる経験は、安定した環境では決して得られないものだ。

混乱と熱狂。成功と失敗の距離の近さ。すべてが未整備であるがゆえの、自分で道を作る感覚。——これらは、特定の環境でしか体験できない。

一方、着実に成長する組織では、別の種類の価値ある経験が積める。仕組みの重要性。安定の価値。長期的な関係構築の技術。どちらが優れているかという問いは、意味がない。 それらは、本質的に異なる経験なのだ。

混同の代償

問題は、この二つの経験を混同することだ。

安定した環境での経験を持つ人間が、急激な変化の環境に入ったとき、自分の常識が通用しないことに気づくまでに、時間がかかる。 そして、気づいたときには、すでに信頼を失っていることがある。

逆もまた然りだ。急激な変化のなかで育った人間が、安定した環境に移ったとき、そのスピード感が必ずしも求められていないことに戸惑う。

経験の価値は、文脈によって変わる。 ある文脈で極めて有効だった能力やマインドセットが、別の文脈では障害になることすらある。

経験を因数分解する

だからこそ、経験の本質を正しく理解することが重要だ。

「小さな組織で働いた」という事実だけでは、何も分からない。その組織がどのような環境にあったか、どのような速度で変化していたか、その変化のなかで何を学んだか——これらを因数分解して初めて、経験の真の価値が見えてくる。

「何をしたか」よりも、「どのような条件の下で、何を経験し、そこから何を学んだか」のほうが、はるかに重要だ。

謙虚さという前提

異なる経験を持つ者同士が協働するとき、最も重要なのは謙虚さだ。

自分の経験が唯一の正解だと思い込まないこと。相手の経験のなかに、自分には見えていない価値があるかもしれないと想像すること。

「私は〇〇を経験したから分かっている」という態度は、しばしば「私は自分の経験の範囲でしか物事を見られない」という告白と同義だ。

成長の速度が違えば、見える景色が違う。景色が違えば、そこから得られる知恵も違う。その違いを、優劣ではなく、多様性として受け止められるかどうか。 それが、異なる経験を持つ者同士が共に価値を生み出せるかどうかの分水嶺になる。

自分の経験を絶対視せず、他者の経験を軽視しない。その姿勢の上にだけ、本当の意味での学びと成長が生まれる。