「経営者の器以上に会社は育たない」に関する考察 〜サスティナブルな企業経営とは

プロダクトやサービスをアウトプットとして、WHYをベースとした根源的な価値を顧客へ、社会へ、そして世界へ提供し続けるためには、企業は成長し続ける必要があります。

世の中のありとあらゆるものは「無常」でありますから、その形は変化し続けていきます。そのなかで、今よりも悪い状態になることも避けられないものです。そのまま没落していってしまっては、価値の提供も、WHYの実現もできません。

だから成長し続けなければなりません。心から信じるWHYがあって、その実現を目指しているのであれば、企業は成長し続けなければならないのです。これが、サスティナブルな企業経営が必要な理由です。

そのためには、様々な壁がもちろん存在します。このときの壁には、市場環境や政治、国際関係など様々なものがありますが、そのひとつに「経営者の器」があるのではないかと考えています。「経営者の器以上に会社は育たない」という言葉を一度は耳にしたことがあるでしょう。

「経営者の器以上に会社は育たない」とはどういう意味か。サスティナブルな企業経営を意識しながら、この言葉の意味を考察してみます。

「経営者の器」とは「運」である

昨今のスタートアップ環境においては、上場や買収を経て、金銭を手にし、名声をも手に入れる人たちをよく目にします。彼らは、特別な何かを持っているから成功したのでしょうか?ボクはそうは思いません。

新しい事業を1つ立ち上げ、成長させることは、どんな人であってもできることであると考えています。なぜならば、事業の成功のもっとも大きなキーファクターは「運」だからです。

たまたま、プロダクトを世の中に出したタイミングが良かった。たまたま、いいチームメンバーを揃えることができた。たまたま、バッチリはまるアライアンス先と出会えた。

世の中は、自分でコントロールできることのが少ないのです。特に「成功」においては自分でコントロールできること以外の要素が大きく影響しています。

となると、経営者の器には、まずこの「運」がひとつ定義できると思います。もちろん「運」そのものはアンコントローラブルなものでありますから、経営者の器とは「運」の「機会」の「数」というコントローラブルのものを指します。

「経営者の器」とは「知恵」である

サスティナブルな企業経営と考えると、事業の成功は、1つだけではだめなのです。前述の通り、世の中は「無常」ですから、今成功とみなされている事業も、10年後、5年後、もしかしたら1年後や半年後にはうまくいかなくなるかもしれません。

だから、サスティナブルにするためには、継続的に成長し続ける必要があるのです。2つ、3つと事業の成功をつくり続けなければなりません。

そうなると「運」だけでそこに辿り着くことは難しくなります。2つ目はまだいけたとしても、3つ目以降なんて、運だけに任せていれば、天文学的な確率となるでしょう。(もちろん、世の中にはそういう成功をし続けることができる人がいることは否定できませんが…)

では、連続的に成功を掴み、継続して成長するためにはなにが必要か。それは「知恵」です。

最初の「運」でうまくいったものが何故うまくいったのか、もしうまくいかなかったものがあれば何故うまくいかなかったのか。これを分析し、理解し、次に同じように成功するためにアナロジーとして、次に同じような失敗をしないための教訓として利用する。

これこそが、連続して成功するために必要なことだと思います。

(このあたりは、「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という別稿で考察しています)

「経営者の器」とは「時代の流れを読む力」である

「運」と「知恵」とは、「知恵」を使って運以外の失敗する要素をつぶすことで、「運」があたる確率を極限まで高める、ということ。「運」の機会と「知恵」の量こそが、「経営者の器」である、と。

「経営者の器以上に会社は育たない」とは、逆説的にとらえれば、「運」の機会と「知恵」の量を増やすことで「経営者の器」を大きくすれば、会社は育ち続けるということになります。

本稿でいう「運」と「知恵」は経営者のコントローラブルなものである、と定義しています。本人の努力でどうとでもなるものであると。

しかしそれでも、うまくいかないことがでてきます。どんなに自責思考をもって振り返っても、自分のコントロール範囲外で起きた事象で事業が傾くという経験は誰しもしているのではないでしょうか。それは経営にはもうひとつの要素を考慮しなければならないことがあることを意味しています。「時代の流れ」です。

これだけはもう誰がどうやってもアンコントローラブルです。この世に存在する誰一人としてコントロールすることはでません。

しかし、流れを「読む」ことはできるはずです。この先にどういう可能性があるのか。その流れを読んでいる経営者こそが世界を変革しているし、それが読めなくなったとき没落がはじまっているように思えます。

ひとつの時代を築き、世界を変革した日本の高度経済成長期を代表するような大企業が、その変革を継続させることができずに、続々と事業縮小したり、潰れたりしているのは、「時代の流れ」を読む力が経営層になかったというのは一面としてあるでしょう。

孫正義、スティーブ・ジョブス、マーク・ザッカーバーグなど昨今の経営者から、本田宗一郎、松下幸之助など稀代の経営者まで、世界を変えた経営者はみな、この力を持っているというのは、誰しも異論はないと思います。

「経営者の器以上に会社は育たない」の本意は、「器を大きくする」ことではなく「捨てる」ことである

では、本題に戻って、「経営者の器以上に会社は育たない」とはどういうことか。逆説的に「会社が育つ経営者の器」とは何かを考えてみます。

前述の通り、「経営者の器」とは「運」であり、「知恵」であり、「時代の流れを読む力」であると考えました。そのとき、「器」を大きくする努力をすることが「会社が育つ」に繋がるのでしょうか。

確かに「知恵」は努力でつけられます。「運」のよさは努力でどうにもなりませんが、機会を増やすことで総じた成功確率をあがることができます。「時代の流れを読む力」は割りとセンスに近しいが、情報量の拡大、情報の中心にいる、など、努力しようがないわけでもないでしょう。

となると、やはり「器」を大きくすれば、その器にそって会社も育つということになるのでしょうか。

若干の論理破綻も含むが、ボクはそうではないと考えます。「経営者の器」とは大きくするための努力をするのではなく、今の器を捨て去り、新たな大きなサイズの「器」を手に入れるということが必要なのではないかと。

ここでいう「器を捨てる」とは、言い換えれば「成功体験を捨てる」ということになります。これこそまさに大きなポイントだと思うのです。一度成功した経営者がどこかのタイミングで大きな失敗をし、没落していくとき、そのひとつの要因に成功体験に引きずられている、ということがあると考えているからです。

少ない事例ではあるが、間近でみてきた様々な経営者の失敗例を見る限り、ほぼすべてにおいて成功体験を捨て去ることができず、時代が流れているにもかかわらず過去の成功体験ににこだわり続けた結果、ユーザが過去に求めていたが今は求めていないプロダクトを作り続けて没落していっているようにみえています。

今の「器」は、過去の成功体験のなかで培われた「運」であり、「知恵」であり、「時代の流れを読む力」である。それはあくまで過去にとって大きな器かもしれないが、未来にとって大きいとは限らないのです。

だからこそ、自らが未来に対しても大きな器であれると信じて、成功体験という名の器を捨て去り、新しい体験を得るためにチャレンジを繰り返して、次の成長への足がかりを作らなければならないのです。そして、その経営者の成長こそがそのままサスティナブルな経営へと繋がっていくのだと思うのです。